第十二話 名倉さんはどうなさっているのでしょう

「そういうわけで、昨夜は父上のお陰で猫シュミと言うものをじっくり見せていただきまして、その後パソコンの使い方を教えて貰いました。イヌが『五十音』というものをうまく検索してくれたので『いろは順』ではなく『五十音順』というのが理解できました。名簿順というのはこれのことだったのですね」

 太一郎が宇部相手にめちゃくちゃ盛り上がっとる。よほどパソコンが面白かったと見える。あっという間にマスターしてもーたし。寝る間も惜しんで色々調べとったけど、江戸時代から先のことをやたらと真剣に見とったな。俺のゲーム用PCとディスプレイが、ゲーム以外のものを表示するなんて初めてなんちゃうか?

「わたくしは皆さまより二カ月ほど遅れておりますので、伴天連語などはちんぷんかんぷんにございます。今夜は伴天連語を勉強しないといけません」

「バテレン語じゃ検索したって出て来ねえぞ。ネコ動の『ビリケンゼミ中学英語』で検索してみ。発音も教えてくれるから」

「ねこどう?」

「ネコネコ動画な。ドニャンゴって会社が運営してる動画配信サービスだよ」

「はぁ……」

 まあ、そんなこと言うてもわからんわな。

「あとな、バテレン語じゃ誰も通じねえから。英語だから」

「それより、わたくしと一緒に階段を落ちた名倉さんはまだ学校に出ていらっしゃらないのでしょうか。もしや酷い怪我をなさったとか」

「その辺は俺も知らね。女子の方が知ってんじゃね?」

「なるほどそうでございますね」

 太一郎は何を思ったのか、俺を頭に乗せたまま蕪月かぶつきに近付きよった。蕪月は双子なんで、俺はどっちが姉でどっちが妹かようわからん。

「あの、少々お尋ねしますが、わたくしの隣の席の名倉さんのご容態をご存知ではありませんか」

 当然やけど、蕪月は目を点にした。隣にいた姉か妹と二人で、見事に双子ポカーンや。まあ、俺が蕪月でもきっとポカーンとするわ。

「よくわからないけど」

「でも学校に来てないんだから、まだ入院してるんじゃないの?」

「わからないのですか。それでは先生に聞いてみます。ありがとうございます」

 って、丁寧にお辞儀しとるし。普通せえへんて。

 そこに横から割り込んできた女子がおった。シラタマこと白石珠江しらいしたまえや。肌もモチモチで色白、ホンマに白玉みたいな子ぉやねん。

「南雲くんってキャラ変したよね?」

 まあ、中身が違う人間やしな。俺やったら「さよか」で終わりやし、そもそもこいつによう声かけんわ。照れるし。アイドルユニット薮坂46のセンターに置いても遜色ない程の美形やで。

「きゃらへん……とは何でございましょう?」

「んーと、キャラが変わったって言うか。前はもっとだらしない感じしてたけど、なんかいい感じにジェントルマンぽくなったっていうか」

 まあ、そうやろな。お前が正しいで。

「きゃらでございますか。よくわかりませんが、ありがとうございました」

 そこに宇部がササっと寄って来た。

「なあ、名倉のことなんか聞いてどうすんの?」

「お見舞いに行こうと思います」

 は?

「もしかすると名倉さんもわたくしと同じような目に遭っているかもしれませんし」

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