第三十二話 サバトラさん降臨
その後、警察から「学校から出ない方が安全」という連絡が入り、どうせ家に帰れないならこのまま文化祭を強行してしまえと校長が決断したらしく、二限から文化祭はスタートした。とは言え、地域住民や生徒の家族はさすがに家から出るのはためらわれたらしく、校内だけの文化祭となったようや。しゃーないわな。そこら辺を強盗犯がうろついとるかもしれんし。
三限くらいになると、パラパラと保護者らしき人達と校内ですれ違うことが増えた。強盗犯は捕まったんやろか? 留学生たちの為にも、太一郎の為にも、一人でも多くの人に芝居見て欲しいねんけどな。
そんなことを蕪月(どっちかわからん)に抱っこされながら考えとったら、なんや廊下でざわつく声が聞こえた。
「何かしら」
蕪月が立ったところへ、ちょうどスバルが駆け込んできた。
「宇部! サバトラさんご降臨だぞ!」
「え、うっそ、マジで?」
「にゃ?」
最後の「にゃ?」はもちろん俺だが、それもそのはず、『サバトラ』さんというのはうちの親父が使うとる『ゲーム実況動画配信時のアカウント』なんや。ゲームの世界ではかなりの有名人やが、ゲーム配信でもないのに、何しに来たんや?
「えー、本日はゲーム実況ではなくてですね、近所の中学校の文化祭に来ております。ちょっと活気がないと思ったでしょ? 実はさっきこの近くでコンビニ強盗があったらしくてですね、まだ犯人が逃走中ということで、お客さんがあまり入っていないようなんですね。こういう日はあちこち回れますんで、ちょっとゲーム性のあるところを見て回ろうと思います。あ、こんなところにイヌがいました。ちょっとこっちおいで」
なんでやねん、と心の中でツッコみながらも親父の顔を立ててやるか。
「コイツはうちの飼い猫で名前をイヌと言います。この子もサバトラなんですよね。可愛いでしょう、うちの猫」
いや、あんたの息子やで。
「この猫はあとで一年一組の芝居に出演することになっているらしいので、それを楽しみにしたいと思います。おっ? あそこに迷路の看板が出てますね。ちょっとあそこを攻略してみましょう」
親父は俺を下ろすと、カメラを向けながら歩いて行ってしまった。あの感じだと桃太郎の芝居も配信しそうだな。ってことは人の顔を認識してフィルターをかけるアプリ入れたんやな。
親父が出て行ったのを見て、名倉が立ち上がった。
「さーてみんな、あと三十分だ。そろそろ講堂に移動するよ。まったくとんだ目に王子稲荷だ」
「雨降って地固まると申します。これから良い事がございますよ」
「太一はいつもポジティヴだねぇ。あたしゃあんたのそういうとこ好きだよ」
「えっ? えっ……その、あの、ええと、つまり、いえ、あ、そうだ『ぽじてぃぶ』とは何ですか」
太一郎、パニクって訳わからんこと言っとる。名倉の言うとる「好きだよ」はお前の考えとるものとはずいぶん違うんやが。
とにかく俺らは講堂に移動して、張りぼての大道具やら、刀や金棒などの小道具を準備した。
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