第二十一話 留学生、濃いわ
それから一週間が過ぎた。もう七月や。
あいつらもともと頭が良かったんやろな。驚いたことに、名倉も太一郎も凄まじい勢いで今の文化を吸収し、勉強の方もどんどん理解してみんなをゴボウ抜きにして行きよった。
大体な、あいつら『マイナス』とか知らんかってんで? 時計の読み方も温度計の見方もなんもわからんかったんやで? それが今じゃ負の記号がついた四則演算が誰より早いとかおかしいやろ。
太一郎の方はお店(お店と書いて「おたな」と読むらしい)の勘定を一手に引き受けてたらしいが、まあそれは今でいう経理のこっちゃろな。数字に関しては得意や言うとったが、経理は文系、数学は理系、どっちなんやろな。
そんで名倉の方は女優さんやしな。暗記が得意やねんな。せやし、英語がいきなりダントツの成績になってもーて、これもしかしてフツーに通訳できんじゃね? んなこたぁないか。
そんで今日や。留学生が来よった。四人や。午後一の全校集会では、彼らが一年一組に入って文化祭にも参加するいうことを校長が軽く紹介しただけやった。
それがどやねん、クラスのホームルームで自己紹介した彼らは、普通に日本語喋っとった。日本文化に興味があって、日本語もそれなりに話せる子だけが選ばれたようや。
そりゃあそうやんな、受け入れ側やってほとんど英語なんぞ喋られへんようなのばっかやしな。少しくらい日本語話して貰わへんとな。
最初にすげえ体格のいい奴が自己紹介した。ぶっちゃけ俺(今は太一郎)よりデカい。バスケ選手みたいな感じの白人で、目と髪はブロンズやが、めっちゃ短く切っとる。
「こんにちは。僕の名前はリアム・テイラーです。リアムと呼んでください。僕の父はトコタの工場で車を作っています。うちの車も父が作ったトコタ車です。妹がいます。好きなものは日本のアニメとゲームです。特に猫シュミが得意です。空手をやっています」
トコタ車に空手に猫シュミとは恐れ入る。ガチの日本マニアだ。いっそ名倉や太一郎より詳しいんちゃうか?
次も男子だが、こっちは黒人だ。コイツも背が高いが、リアムのようにガタイがいい感じじゃなくてどちらかというとひょろっとスマートだ。黒人のマラソン選手とか短距離の選手にいそうだ。ドレッドヘアを後ろで一つに束ねとる。既にちょんまげや。
「コニチハ。ジェイコブ・トンプソンです。拙者はアフリカ系の父とアメリカ人の母のハーフです。日本の浮世絵が好きです。サムライになりたくて、髪を
名倉が太一郎に耳打ちしとるのが聞こえる。
「随分と背の高いお侍さんだねぇ。シシマゲってのは知らないけど」
「総髪のことのようですね」
ここで反対側から宇部が首を伸ばしよった。
「幕末の……ああ、ええと、江戸幕府が終わるころの侍の髪型だよ。戊辰戦争ってのがあってさ、これから戦いに行くのにのんびり髷なんか結ってられないって」
なんや宇部、妙に詳しいな。時代劇ファンつっても幕末まで網羅しとるな。こいつ。
「確かに戦を前に
「にゃ?」
俺が「サカヤキって何?」という顔で宇部の方を向くと「月代ってのはチョンマゲ結う時に頭のてっぺん剃ること」って教えてくれる。さすが宇部は物知りやな。
それにしても黒人がドレッドヘアを後ろで束ねて志士髷ってきっぱり言い切るのもなんやカッコええな。しかも『拙者』やて。
次は女子や。この子も黒人やが背ぇは小っさい。チリチリの黒髪を短くカットしとる。少年のようにも見えるな。
「私の名前はペネロペ。ペネロペ・クラーク。忍者に憧れて、ニンジャ・ワークショップに毎週通ってるの。まだ本物の手裏剣には触ったことがないけど、折り紙で作った手裏剣におもりを入れて毎日投げてるわ。今は鎖分銅の練習中。これができるようになったら次は鎖鎌をやりたいんだけど、危なくってやらせて貰えないの。家は園芸家で、バラやクレマチスを交配して新しい品種を作り出しているのよ。だから庭で私が手裏剣を投げるとすごく怒られるわ。忍者に詳しい人、いろいろ教えてね」
どうやらこの子が一番日本語が流暢に話せるらしいな。それでもさすがにアメリカ人だけあって、身振り手振りが半端ねえ。
最後も女子。こっちは白人で、ウェーヴのかかった金髪が肩にかかっとる。スレンダー美人さんや。
「ハジメマシテ……でいいの? OK? ワタシはゾーイ・ジャクソンです。日本のゲーム、面白い、大好きネ。いつも剣士ソルジャー使う。カタナソード持つの好き。エクスカリバーよりはムラマサの方がずっとカコイイね。好きなサムライいるよ。ミヤモトムサシ。ササキコジロウ。ガンリュージマね。ヨロシク」
彼女が一番日本語が怪しい。めっちゃ美人やが、コミュニケーションはヤバそうや。ペネロペがそばに付いてるのはそういう訳やな。
そして四人の自己紹介が終わったところで先生が恐ろしいことを言ったんや。
「早速だが、文化祭の出し物について教えてやってくれ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます