第22話 ミント・クルール


「ミント・クルールが入学できたのは、魔弾きのペンダントを持っていたからです」


 カルノ先生の口から出た言葉を、トジは信じられなかった。


「すまぬ。もう一度言ってくれ」


「ミント・クルールは魔弾きのペンダントを持っています。それに気づいた私が入学を許可したのです」


「……なぜじゃ」


「秘宝は一個人が持つには危険すぎます。どのような経緯でミント君が持っているにせよ、いずれ学園に保管しようと考えていました」


「では、ミントには魔法使いの才能はないのか」


「ないわけではありません。我が校の基準にギリギリ届かないだけです」


「……ではワシは、俺はどうなのだ。ミントよりも成績が低いぞ」


「トジ君は、カラツ先生の推薦です。ですが、トジ君には魔法使いの才能が有ります。それも並みの生徒よりも」


 それはトジが本当は八十を過ぎた老人であり、魔法を唱え続けていたからだ。


 だが、そんなことはどうでもいいのだ。


「なぜ、ミントは秘宝を取ったのじゃ」


 トジの問いに答えたのはリージョだった。


「満月だからダヨ」


 新魔力会にはすでに、神秘の聖杯と魔弾きのペンダントがある。


 そして今日は、祭礼の儀を開くには絶好の満月。


 そこに、トジが三つ目の秘宝。


 祭礼の儀の最後のカギである魔封じの懐中時計を持ってきたのだ。


「じゃが、ミントは祭礼の儀など―――」


 トジには分かっていた。


 ミントは劣等感を感じている。


 だから、新魔力会に入ったことを自慢したくてたまらなかったし、批判されるのを恐れた。


 それに、ミントは言っていた。


神人っての力を借りることで、オレの力をもっと凄く出来るとか。


「まさか……」


 カラツ先生も言っていた。


 神人は精霊の力を取り込もうとしたと。


「じゃが、その結果は分かっておるはずじゃ」


 謎の爆発。


 そして、そこは今だに立ち入り禁止の区画だ。


 カルノ先生は引き締めた表情で言う。


「警戒態勢に入ります。授業も中止し、寮へと戻ってください」


「ワシも行く」


「ダメです。もし、新魔力会が祭礼の儀を行った場合、何が起こるか分かりません」


「だからじゃ。友人を放っておけぬ」


 カルノ先生はトジの瞳を真っ直ぐに見つめる。


 しかし、首を横に振った。


「いけません。これは我々教師の役目。生徒を危険に晒すなど出来ません」


 頑として首を縦には振らないだろう。


「今日はもう外出禁止とします。これから先生方にも通達するので、お二人もすぐに寮へ戻りなさい。良いですね」


 頷くしかなかった。




「待ち合わせにすルノ」


 寮へと戻る途中、リージョがそんなことを言った。


「待ち合わせじゃと?」


「ウン。トジは行かないノ」


 あれおかしいなと首を傾げるリージョに、一応問う。


「どこへじゃ」


「もちロン。祭礼の儀だヨ」


 笑ってしまった。


 トジは思わず笑っていた。


「リージョよ。お主は凄いのう」


「そウ?」


「ああ、凄い。ワシはまだまだ甘いと思い知らされる」


「トジに褒められるとイイ気分」


 肩を左右に揺らして嬉しさを表現するリージョに、再び微笑み、トジは言う。


「祭礼の儀は満月の夜じゃ。して、おそらくじゃが叫び欅が怪しいと思っておる」


「ウン」


「この前、ワシが出てきたところに、夕食後に集合じゃ」


「ワカッタ」


「よいか。これは危険なことじゃ。充分注意するのじゃぞ」


 トジの警告を聞いていたのか、リージョは喜ぶ。


「やったー。初めての活動ダ」


「ん? 活動とな」


「ウん。不思議研究会、初の課外活動」


「ワシ、不思議研究会じゃったのか」


「アレ? 違うの」


 急にしょんぼりしだしたリージョに、トジは慌てて言う。


「いや、そうじゃ。そうじゃった。ワシは不思議研究会の部員じゃったな。ちなみに、他にメンバーはおるのか」


「ううん。私達二人だけだよ」


 そういうリージョは何故かとても嬉しそうだった。

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