第15話 新魔力会
翌日になっても、さらに日を重ねても、ミントが完全にいつもの調子を取り戻すことはなかった。
トジは、学園の頂上にイースターエッグを隠しに行こうと誘ったり、カラツ先生のカツラを素手でとろうとして返り討ちにあったり、いくつか馬鹿をやってみたがミントは少し笑って、すぐに落ち込みモードへ入ってしまう。
一番の問題は、クラブに対する興味を失ってしまったことだ。
「ミント。お主は新魔力会に入りたいと言っておったな」
新魔力会とは、昔からあり優秀な生徒が集まるクラブらしい。
当時のトジが学園を去ってから出来たクラブで、詳細は知らないが、何でも部員はスカウトか、厳しい入部テストを通過した者だけ。
活動内容もほとんど明かされないが、部員は一番上の寮であるコワモコワ寮の生徒がほとんどだという。
ミントの話では、新魔力会の卒業生には、冒険者となって最高難易度の依頼をいくつもこなす最強の魔法使いや、国の最高戦力と言われるような魔女。そのほかにも、とにかく凄い人たちがいたクラブらしい。
あのカルノ・スーリストも学生時代に所属していたことがあると、目を輝かせて説明してきたのを覚えている。
だが、今のミントはクラブに入る気力もないようだ。
「のう。明日、入部テストがあるらしいぞ。行ってみたらどうだ」
「……トジ。オレはどうせ無理だよ」
「何を言っておる。挑戦しなければ、何も動かぬぞ」
「……どうせ無理って分かってるのに、やる必要ないだろ」
トジは足を止めた。
「ミント。よく聞くのじゃ」
ミントの目を真っ直ぐに見つめ、訴えかける。
「どんなことであろうと、やるだけやった方がよい。それが間違っておっても、何かには繋がる。何もしなければ、後悔が残るだけじゃ」
「……」
「ミント。この前も言ったが、失敗とは橋じゃ。この先の人生にある谷を越えるための橋を作っておる。橋があるから、谷を楽に越えられるのじゃ」
「でも、橋を使わないかもしれないだろ」
「それならば、それでいいではないか。あんな橋を作ったのだと、自慢したり笑い話にすればよい。重要なのは、恥や失敗を恐れて何もしないよりかは、たとえ馬鹿にされようと無駄だと思っていようと、行動することなのじゃ」
トジの想いは伝わっただろうか。
ミントはじっとトジを見つめて、ため息をついた。
「まあ、考えてみるよ」
「うむ。そうするのじゃ」
もし、ミントが明日、新魔力会の入部テストを受けないと言えば、引きずってでも受けさす。
たとえ、それで喧嘩になろうとも、トジはミントを行動させることにした。
翌日。
案の定、ミントは何か言い訳をしながら入部テストを受けないつもりのようだった。
だから、半ば騙すようにして入部テストまで連れていった。
そこまで行ってもまだ、受けないと言うので、最後の手段。
「ミント。もし、入部テストを受けないのであれば、お主の恥ずかしい思い出を全校生徒にバラすぞ」
「……バラせばいいだろ」
重症である。
「ええい! いいから、受けるのじゃ。というより、すでに受付は済ましておる。さっさと行け」
本当に引きずるとは思いもしなかったが、そうして無理やり、入部テストを受けさせたのだ。
テストの内容や様子は、外部の者には見せられないらしいので、トジはその間、日記の解読をしようとするが、どうも手につかない。
少々強引すぎただろうか。いや、それでも何もしないよりいいはず。
何もしない辛さをトジは知っている。それに比べれば、行動した方が何倍も良い。
それでも、不安である。
おそらく、ミントは落ちるであろう。
正直に言うが、ミントには魔法使いの才能はあまりない。
この学園に通うくらいの素質はあるが、一流の、最強の魔法使いになるような才能はなかった。
「唯一あるのは、ミラ先輩ぐらいじゃからな」
ミラ先輩と比べるのは、誰だろうと可哀そうになるのでやめておき、どうやってミントを励ますかを考える。
「しかし、時間が一番かの」
時間が経つまで、馬鹿なことを繰り返していれば、その内笑ってくれるだろう。
ぼちぼち、入部テストが終わる時間だった。
本当なら、すぐにでも迎えに行きたかったが、テストの場所も終わる時間も詳しくは知らされていなかったので、夕方になってから寮の談話室へと戻ることにした。
「どうやって励ますかのう」
談話室へと扉をくぐると、何やら騒がしい。
誰かしらの誕生日には、勝手にケーキを持って来て、運が悪ければ花火までして、宿題や教科書に焦げがつくことがある。
また誰かの誕生日なのだろうと、騒ぎの中心は見ずに、一人寮にいるであろうミントの元へ急ぐ。
「トジ」
呼ばれた。
トジは聞こえないふりをして、寮の個室へ行こうとした。
「トジ!」
お祭り騒ぎの中心。皆が囲って、やんややんやと騒ぐ真ん中から、その声は聞こえて来た。
「ミント?」
「トジ! オレ、やったんだ!」
何をじゃ。
問おうとして、ミントの満面の笑みと、周りの騒ぎようにかき消される。
だが、それ以上の声で、興奮したようにミントが言う。
「トジ。オレ、受かったんだ。新魔力会に入れるんだ!」
とうとうミントは担ぎ上げられて、皆から胴上げを受けていた。
何がどうなっているのか分からぬまま、トジもミントを宙へと放り投げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます