第23話 神人
夕食は特殊だった。
普段であれば、大食堂に運ばれる食事が、寮の個室まで魔法で運ばれ食べるスタイルだった。
ほぼ全ての生徒が、この状況に不満を言いに、談話室には人が集まっていた。
夕食後すぐに、待ち合わせ場所へ向かいたかったが、いかんせん人が多すぎて、秘密の抜け穴を使う余裕がない。
正面から出ていけば、当然見回りの先生に見つかり連れ戻されるだろう。
時間は着実に過ぎていく。
リージョのことだろうから、もう待ち合わせ場所にいるだろう。
どうやって寮を抜け出しているのか分からないが、リージョは不思議とそこにいるのだ。
だんだんと辺りが暗くなっていく。
もうこれ以上は待てなかった。
『サソケ』
談話室が闇に包まれ、騒ぎが起こる。
外に出てはいけないと言われ、不満たらたらで談話室に籠っているが、突然の闇にほとんどの人がパニックになる。
余りの騒がしさに、先生が飛んでくるだろう。
急いで暖炉の紐引っ張り、大杖をうまく引っ込ませながら潜り込む。
しっかりと閉じることも忘れずに、背後のパニックに心の中で謝りながら進むのだった。
やはり、リージョはそこにいた。
「すまぬ。なかなか抜け出せなかったのじゃ」
「来てくれるって分かってたカラ平気」
辺りはすでに暗く、満月が煌々と輝き始めていた。
「急ぐか」
「ウン」
叫び欅の元へ歩き始めた瞬間、満月が落ちてきたような光と衝撃が襲った。
大地が揺れ、木々が倒れる。
トジはリージョを庇うように覆いかぶさる。
揺れはしばらく続いた。
ようやく収まった時、黄金の光が叫び欅の方に見えた。
「急ぐのじゃ」
走る。
近づけば近づくほど、光は強くそして、その惨状が見えてくる。
「これは……」
おそらく燭台があったのだろう。
ほとんどが地面埋もれたり、途方もない場所に転がったり。
おそらく秘宝を置いたであろう台座は辛うじて原型を保っているものの、魔法が掠り今崩れ落ちた。
その魔法はカルノ先生であった。
すでにカルノ先生やカラツ先生を始め、複数の先生が集まっている。
対峙するのは―――
「ミント!」
正真正銘ミントであった。
しかし、その背後。
守護霊のような輝きを放つ者がいた。
人の形をしている。
だが、それは個人ではなく概念のような存在。
目を覆いたくなるほどの輝きを放ちながら、その姿は希薄。
幽霊のように透けており、ミントの動きよりも早く魔法を放つ。
放たれた魔法は、異常な強さだった。
先生二人がかりで、ようやく逸らせる程度。
逸らした魔法が地面を抉り、大地が揺れる。
先生が放った魔法は、ミントまで届かず、直前で消える。
「魔力が強すぎる」
ミントと守護霊の魔力があまりに強大で、先生の放った魔法がかき消えたのだ。
それでも諦めずに、先生たちは魔法を放つ。
様々な光線が飛び交うが、ミントの所まで届いたのはカルノ先生と辛うじてカラツ先生だけだ。
届いたと言っても、手を振るような軽い動作で打ち消されてしまい、ダメージは全くない。
だというのに、ミントと守護霊は強力な魔法を放つ。
「まずい」
先生の一人が魔法を逸らしきれずに吹き飛ばされた。
爆発するような衝撃がこちらまで飛んでくる。
『ズゥ・モスア・ユマヲ・ホルソ・ルヅハオ・ラワムリ』
地面が盛り上がり、二人を守る壁となる。
壁はあっという間に崩れ去り、魔法をくらった先生は立ち上がることが出来ない。
「リージョ。ここで待つのじゃ」
「ダメ」
リージョが止める。
「リージョ。今ここで動かねば、ワシは後悔するのじゃ」
「……私モ行く」
「ダメじゃ。危険すぎる」
「トジが行くのに、私が行かなかったラ、私、後悔する」
悩む。
リージョの想いを汲んでやりたいが、敵は余りにも強い。
怪我くらいならいい。
それ以上に酷いことになる可能性は十分にあるのだ。
僅かな逡巡。
よぎるのは過去の自分。
先生たちに研究を剥奪され、全てが消え去ったあの時。
トジが何より恨んだのは、研究を剥奪されたことじゃない。
研究は実戦段階にまで進んでいた。
今までの成果を試す唯一の機会だった。
それを潰されたのだ。
あの時のトジの理論は正しかったのか。間違っていたのか。
それすら分からない。
機会を失い、二度とあの時は戻ってこない。
研究し直せばいいなどという問題じゃない。
全てを賭けたあの時間、心血を注いだあの瞬間は返ってこない。
例え研究が失敗に終わると知っていても、あの時に戻れるのならトジは挑戦するだろう。
「リージョ。死ぬな」
「ウン!」
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