第5話 教師と学園と大切な人と
教師と言うのは傲慢で、いつも人を見下している人物のことを言うと、トジはずっと思っていた。
少なくとも、当時のトジが通っていた学園ではそうだった。
自らが正しいと決めつけ、トジが新しい理論や魔法の効率化を発見しても、決してそれを認めず、次の日にはまるで自分が見つけたかのように自慢げに話す。
トジがこちらが先に見つけた物だと言っても、教師にとっては関係ない。
教師には見えない権力があった。
誰も逆らえず、黒を白と言えば白になるような力。
皆分かっている。
教師がずる賢く、卑怯な連中だと。
けれど、それを口に出せば、その後の人生がどうなるか保証は出来ない。
学園を辞めさせられ、魔法界に悪い噂を流され、まともな職にはありつけなくなるだろう。
魔法界を追放された魔法使いは、噂の届かぬ田舎に行くか、冒険者になるかの二択。もしくは悪の身となるか。
リーライン魔法学園はそれほどの力を持った学園であり、その権力を意のままに操れるのが教師たちであった。
学園は一種の治外法権だった。
トジのような生意気で、能力のある者はすぐに標的になる。
どれだけ良い点を取ろうと、真面目に授業を受けようと、新しい魔法を発見しようと、全てが教師のおかげ。
教師がいるから出来たこと。
生徒が理論を見つけても、論文に名前が載るのは教師であり、生徒の名前は小さく協力者の一人として書かれるのみだ。
ふざけるな。
そう声を上げた次の日には、その者の席はない。
だから、トジは教師に対し敵対心がある。
失くせるはずがない復讐心。
絶対に許さないと心に決めていた。
けれど、当時トジをいたぶった教師たちは皆死んだ。
時の流れには逆らえなかったのだ。
あれだけ、威張り散らし、人の物を横取りし、自分の利益しか考えない奴らも、時の流れには勝てなかったのだ。
「ワシは違う」
トジ・ウジーノは違った。
時を戻す魔法。
神の御業と呼ばれ、禁忌ともされている魔法を、発明した。
そして、今ここに、トジは十代の肉体で二度目の学園生活を送っている。
これがすでに復讐なのではないか?
時々そう思う。
けれど―――
「まだじゃ。まだ足りぬ」
そうだ。こんなものであの時の恨みは晴れない。
何もせずに、満足するなど出来るはずがないのだ。
「ワシはやらねばならぬ」
絶対の復讐を。
狂気の復讐を。
大切な人の為の復讐を。
トジは晴れ渡った空を見上げる。
気持ちの良い空だ。澄み切って晴れやかな気持ちにすらなってくる。
それでも、トジは拳を握り込み、睨みつける。
黙って目を瞑り、息を吐く。
それから呟くように言う。
「……ミラ先輩」
学園によって失った大切な人の名を。
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