第3話 いいや、思い出すのじゃ

 怒りの宿った心は火山のように噴火しそうであった。


「君の研究は異端だ」


 たった一人の、嫉妬にも似たその言葉で、トジ・ウジーノの未来は絶たれた。


 トジが研究していたのは、魔法の根幹。魔法の源である精霊についてだ。


 精霊の力を借りて魔法を放つことは知っていても、その精霊を見た者は誰一人としていなかった。文献にも乗っていない。


 先人も成しえなかった偉業を、あと少しのことろで、教師による圧力で一方的に潰された。


「なんで、どうしてですか」


「どうしたもこうしたもあるか。君の研究は異端だ。それ以上でも以下でもない」


「そんなはずはない。魔法の源を調べる研究はされてるはずだ」


「それは専門家が万全の態勢で挑んでいるからこそ認められているのだ。君のような学生風情が手を出していい研究じゃない。分かったら、さっさと資料を渡しなさい」


「断る」


「……ほう。それはつまり学園の教師。ひいては、魔法学園にたてつくという事か」


「……」


「黙っていても始まらん。さっさと研究資料渡し、この部屋から出ていけ」


 反論しようとした。


 けれど、それを許さぬ素早さで、トジの口は塞がれた。


「――――――!」


「どうした? 口がきけなくなったのか? それでは、研究を諦めるという事でいいな。反論はないな」


 口が開かない。


「――――――! ――――――!」


 必死に叫ぼうとした。口を開き、ふざけるなと言おうとした。


 けれど―――


「ほう。何も言わないという事ならば、それでいい。では、しばらく眠っていてもらおうか」


 刹那、トジの意識は暗黒に支配される。


 意識の糸を切られたように、魔法によってトジは口を塞がれ気絶されられた。


 気が付いた時にはすでに遅く、トジの研究していた物は綺麗さっぱり無くなっていた。


 元凶の教師を問い詰めようとした。


 しかし、怒りに震えるトジを捕らえたのは別の教師であった。


 理由。


 その理由と言うのも馬鹿らしい。


 トジが、教師に逆らい禁忌を冒したというのだ。


 そんな馬鹿な主張を、はいそうですかと頷いて、トジをとっつ構えた教師も馬鹿だ。


 その馬鹿のせいで、取り返しのつかないことになった。


 トジの研究を、横取りした誰かが実験に失敗した。


 誰かなどと濁す必要もないだろう。


 トジから研究を取り上げた教師は、その研究を盗み、自分のモノに使用とした。そして、失敗し、学園の一部分が大爆発に巻き込まれた。


 そして、全てはトジが責任を取ることになった。


「誰かが犠牲にならなければいけないのだ」


 校長の言葉は今でも覚えている。


 誰か。


 それが、トジから研究を盗んだ教師でなく、トジを取り押さえた教師でなく、学園の責任者である校長でもなく、その責任は、トジ・ウジーノへと着せられた。


 もはや、学園には居られなかった。


 学園の外にも居場所はない。


 魔法学園を爆破した大罪人。


 気軽に太陽の下を歩くことすら出来なくなったのだ。


「復讐だ」


「復讐だ」


 自然と、紡がれた言葉に従うように、トジは新たな魔法の研究を始める。


 世界の根幹ともいえる時間。


 それを覆す魔法。


 時を戻すという魔法。


「復讐じゃ」


 その想いを忘れることは決してない。


 たとえ、二度目の学園が楽しかろうと、それだけは忘れられない。


 だから、トジは決意している。


 必ず、復讐すると。


 

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