復讐を誓った老人が若返り魔法で学園に戻ったが、案外楽しくて困る
虚空
第1話 復讐の始まり
『ウィ・ヒリ・ウルヒモ・ヒリルソ・シビオ・ユユエ』
復讐だ。
『ウィ・ヒリ・ウルヒモ・ヒリルソ・シビオ・ユユエ』
これは復讐なのだ。
『ウィ・ヒリ・ウルヒモ・ヒリルソ・シビオ・ユユエ』
闇の中、老人がうわごとのように呟く。
『ウィ・ヒリ・ウルヒモ・ヒリルソ・シビオ・ユユエ』
何度も、何度も、しわがれた声で、幽鬼のように発する。
『ウィ・ヒリ・ウルヒモ・ヒリルソ・シビオ・ユユエ』
それは呪文である。
老人が復讐の為に完成させた唯一の呪文。
だが、世界を破滅には至らせない。
悔しいが、老人にそこまでの魔力と、開発するための設備はなかった。
山奥の小さな村。
住んでいるのは人間の老夫婦に、街では珍しいリザードンが三人。たまに山奥へと向かうドワーフがやってきて、リザードンと言い合いをすることがあるが、そんな彼らであっても、山中にポツンと建てられた小さな小屋へは近づかない。
老人はたった一人でそこに住んでいた。
トジ・ウジーノ。
それが、齢八十になろうとする老人の名であった。
彼の半生を語るには、十五まででよい。
なぜなら、十五からの六十五年間は復讐の為の代わり映えない人生だからだ。
トジ・ウジーノは、十歳という最年少でリーライン魔法学園へと通う、真面目な学生だった。
魔法を学び、活かすことに優れており、トジ・ウジーノの知り合いであれば、彼が優秀なのは誰もが知っていた。
しかし、彼の将来は理不尽な出来事によって閉ざされた。
教師からの圧力。
トジ・ウジーノは、優秀であるがゆえに若干の傲りがあった。
それをよく思わない者から、権利を奪われ、未来を潰された。
ふっと、煙を吹き消すように全ての意志が奪われ、トジ・ウジーノは輝かしい表舞台から姿を消した。
自業自得と言えば自業自得なのかもしれない。
けれど、復讐とはそうゆうものだ。
全ては自分の為であり、そのほかがどうなろうと知ったことではない。
ただ全ては己の意志に従う。
復讐せよと命じたままに。
『ウィ・ヒリ・ウルヒモ・ヒリルソ・シビオ・ユユエ』
唱える。
『ウィ・ヒリ・ウルヒモ・ヒリルソ・シビオ・ユユエ!』
―――光が。
闇の中、トジ・ウジーノの身体から光が発せられる。
白く長い髭、皺のよった顔。骨と皮のような肉体。
それらが光に包まれ、そして―――。
「成功じゃ」
呪文を唱えていた時とは違う、溌溂とした声。
白い髭は無くなっており、見なくとも己の身体に力が溢れるのが分かる。
笑顔を浮かべても皺が寄ることはない。
「ワシは成功したぞ」
未だかつて、誰一人として成功したことのない呪文。
神の御業であり、禁忌と恐れられる奇跡の魔法。
トジ・ウジーノの肉体は、十代の頃へと戻っていた。
「ふっふっふ。記憶の祖語もなく、副作用もない。完璧じゃ」
もしもこの魔法を発表すれば、トジ・ウジーノは一躍崇められるだろう。
しかし、しかしだ。
なんのために、この魔法を唱え続けたのか。
「復讐じゃ」
老人の肉体では不可能でも、若い肉体ならば出来ることがある。
「まずは、魔法学園にでも行くかの」
あの時、自分の未来を奪った者はすでに死んでいるだろう。
それでも、この暗い想いは止まらない。
「楽しみじゃ。ぁあ、楽しみじゃのう」
トジ・ウジーノの顔には狂気ともいえる笑みが浮かんでいた。
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