第21話 イースターエッグ


 ミラ先輩の手帳の解読は七割は終えた頃だった。


 寮の個室で、一人手帳を読み返す。


 半分はミラ先輩の天才的な閃きと日常の些細なこと。


 残った半分の内、ほとんどがトジとのこと。


 そして、ほんの一割。


 ほとんど見逃すような一文に、手掛かりは残されている。


「やはり、新魔力会はミラ先輩が作ったようじゃな」


 しかし、その目的に関しては一切書かれていない。


 本当に、祭礼の儀を、精霊の力を取り込むために、新魔力会を作ったのだろうか。


「そうは思えぬ」


 ミラ先輩はただでさえ魔法使いとして優秀だった。


 これ以上の力を求めたところで、何をすると言うのか。


 ページをめくり、解読を続ける。


「私の時間と彼の時間は違う。永遠の時を生きれたら、どれだけ良かったのだろうか」


 たった一文。


 前後の文脈関係なく、ただその言葉が書かれていた。


「永遠の時……」


 そうなのだろうか。


 誰もが一度は考えるだろう。


 時を戻れたら、永遠の時を得られたら。


 もれなく、ミラ先輩もそうだと言うのか。


「じゃが、ワシは信じられん」


 ミラ先輩は、天才で、時折というよりいつも突拍子もないことをするが、そんな俗物的な夢を見るだろうか。


 トジが、記憶の中のミラ先輩を美化しているだけで、むしろ天才だからこそ、手の届いてしまう夢を叶えようとしたのだろうか。


 その結果、何が起こったとしても。


「祭礼の儀は満月の夜に行うのか」


 だとすれば、あまり時間がない。


 次の満月まで一週間ほどだ。


 その間に、秘宝を集めようと、新魔力会が強引な手に出ることだってあり得る。


 翌日からトジは授業を休み、秘宝を探すことにした。


「うーン。ここにはなさソウ」


「そうじゃな、次の場所を探すとするか」


 もう完全に回復したリージョと共に、しらみつぶしに探しているが、いかんせん城は巨大すぎて、探すところが多すぎる。


「ミラ先輩の手帳にも、手掛かりはないのう」


 夜は眠くなるまで手帳の解読を進めるが、秘宝のありかは書かれていない。


 そもそも、二つは持ち去られ、一つは隠されたのだ。


 一つは、リージョが持っていた、神秘の聖杯。


 一つは、魔弾きのペンダント。


 一つは、魔封じの懐中時計。


 そもそも、一つは隠されているので探そうと思えば探せるとして、もう一つは持ち去られたのだ。どうやっても探すことは出来ない。


「この学園にあるヨ」


 リージョの謎に自信に満ちた言葉に縋るように、トジは来る日も来る日も探した。


 そして、満月の日がやってきてしまった。


「トジ。どうするノ」


「……何も起こらないと祈るしかあるまい」


 半ば諦めていた。


 肩を落として歩いていると、カラツ先生がいた。


「やあ、トジ君。元気かい」


「まあまあじゃ」


「私のカツラを取るのを諦めたのかい? それとも、探し物かな」


 探し物。そう言えば、カラツ先生はこう言っていた。


 『予定がないなら、イースターエッグを探すと言い。この学園には卒業生たちがイースターエッグを隠している。見つければ、きっと役に立つ』


 やけくそじゃな。


 カラツ先生に別れを言い、箒を取ってくる。


 箒に浮遊呪文をかけて、跨る。


 箒じゃなくとも、鞄や絨毯でも良いのだが、昔からの習慣でつい箒を選んでしま

う。


 箒に乗って、ぐんぐん空へと昇る。


 やがて、天辺が見えて来た。


 きっと何かは隠されているだろう。


 なぜなら、城の天辺にイースターエッグを隠そうと言ったのは、当時の友人だったからだ。


「ワシが断ったから、止めたのじゃろうか」


 雲に覆われた城の天辺。


 その尖がった先にキラリと光る何かが見えた。


「?」


 近づくほどのそれが何か分かってくる。


「時計。懐中時計じゃ」


 まさか。


 そんな想いで、それを取る。


 瞬間、分かる。


「この魔力量。魔道具じゃ」


 それも普通じゃない。尋常じゃないほどの魔力を、この懐中時計から感じる。


「まさか。これが魔封じの懐中時計か」


 急いで地上に戻り、リージョの元へ行く。


 水晶の文字盤を見てリージョは頷く。


「ウン。多分これだヨ」


「そうか」


 ギリギリ見つかった。


 これで、新魔力会が祭礼の儀を行うことはない。


「トジ、どうしたんだ。嬉しそうだな」


「ミントか。秘宝の一つを見つけたんじゃよ」


 嬉しさのあまり、見せびらかすようにしてしまった。


「マジか……ちょっと見せてくれ」


「よいぞ」


 トジはミントに魔封じの懐中時計を渡そうとした。


「ダメ!」


 リージョが叫んだ時には遅かった。


「トジ、すまん。オレは―――」


 ミントが魔封じの懐中時計を奪い取り、消える。


 何が起こったか分からず、トジは立ち尽くす。


「すまぬ。取られてしまった」


「しょうがナイよ。それで、どうするノ」


「……カルノ先生に相談しよう」


 まだ呆然としながら、トジとリージョはカルノ先生の部屋へと向かうのだった。


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