第12話 想イヲ感ジ、恋芽吹ク

 その人を異性として意識し始めて。ストーカーのような日々を送る僕。あの人のツイッターアカウントを眺める時間が増える。でも書くことは毎日続けているし。自分の作品を書く時間は大切であり。だから自分の作品を書き終えてから。その日の分を書き終わってから。僕は一日の終わりに自分の時間を作る。仕事が終わってから帰宅して、一人暮らしだから晩御飯とか洗濯とかして。お風呂に入ってその日書くことを考える。書くことは普段から常に考えてはいる。僕はプロットって、言葉しか知らなくて。昔、本当に遠い昔。プロットの書き方って本を手に取ったことがある。でも最初の二ページで投げだした。そういうことを二回ほど繰り返した経験があり。自分が分かっていればいいんだろ、と。最初は大学ノートに登場人物の名前と呼び名を書く。年齢とかの細かい設定も書く。あとは入れたい出来事やネタをババーっと大学ノートに書く。そして使ったネタは斜線を入れて。大学ノートに書いた入れたい出来事やネタ全部に斜線を入れれば一作書きあがる。そういう風にやってきた。今ではラインのグループ機能を使っていて。一人グループを作品ごとに作る。そして作品ごとに思いついたネタとかアイデアはその場でラインに送信する。これをやっておけば閃いたアイデアを忘れることはまずない。なにより一人グループのアイコンとか背景画像は自分の好きな画像を設定できる。それだけでテンションが上がる。お風呂に入る前に一人グループに書き込んだことを読み返す。そしてお風呂の中でその日に書く分を決める。でも最近はその人がいろんなところで僕の邪魔をしてきて。一人グループの中にその人の名前の一人グループを作成しちゃったり。そしてその人を、ちゃん付け、で自分の気持ちを叫ぶように打ち込んでみたり。本当に我ながら狂っていると思う。お風呂の中でもそうだ。少し広めの浴槽に詰めて入ってみたり。変態だ。そしてその日の分を書き終わってから布団に入って。自分へのご褒美タイム。エゴサ、だ。溜め息をつきながら。書き手である僕はいろんな言葉を想像し、エゴサする。その人を異性として意識した時、知りたいことは山ほどあって。間違って、いいね、とか、RT、とか押してしまわないように。でも慎重になって。僕はその人のアカウントのエゴサ専用鍵垢を作ってしまう。見つかったら民事で執行猶予三年、五年以下の懲役、もしくは罰金二十万レベルの手の込んだ変態だ。でも、恋をするってことはそういうことだ。そして大変なことに気付く。僕のアカウントの固定ツイートのアクティビティ数が、毎日、あり得ないスピードで増えていること。


 その人も僕のアカウントを見ている


 そんな考えが頭をよぎる。僕のアカウントは平凡な日常アカウントであって。今まで、固定ツイのアクティビティ数をたまにチェックしたことはあったけど、そうそう増えるものではなくて。イーロンさんがまた変な仕様にしたの?そしてすぐに、固定ツイ、アクティビティ数、増える、とエゴサ。結果はそういうことは話題になってもいなくて。そうなると消去法で考えるとその人が見ているとしか考えれなくて。見てくれている?願い。気にしてくれている?願望。ひよっとして両想い?思い込み。僕の中の冷静な大人が甘々な僕の考えをことごとく否定する。まあそういう存在が自分の中にちゃんとあるから僕は人の道を外さずに生きてこれたこともあり。その日から僕は、こまめに固定ツイのアクティビティ数をスクショするようにした。そして別のことにも気付く。思い出す。僕がその人のツイートに、いいね、を押して、リプを送ったのは、あの一次審査を初めて突破した喜びのツイート。あれが最初ではなかったのだ。記憶がどんどん蘇る。あとはエゴサで発見して気付く。実はあのリプの前に、僕はその人に三回、リプを送り、いいね、を押していた。覚えていないのはその人のことを異性として意識していなかったからであり。実力があるのに認められなくて落ち込んでいるその人を見て、じれったいと、小学生の男子が女の子相手に変な意地を張っているみたいなリプ。君のことなんかそんなに気にしているわけじゃないんだから、みたいな。実力があるんだからさっさとデビューしなさい、みたいな。昔の自分が怖い、恐ろしい。過去に遡って天誅を下したい。そして。その人が泣いている呟きをエゴサで見つけた。嬉しい、と。昼間悲しくて泣いていて、でも今は逆で、嬉しくて泣きそうになって。誰かにこんな風に言ってもらったことは生まれて初めてのことだ、と。日付と時間を確認する。僕が、実力があるんだからさっさとデビューしなさい、とリプを送った日と同じ日付だった。小説投稿サイトでこれまで、その人には良い感想も、読み手として気になったこととか、いくつか送ってきた。絵文字の入った返信も貰った。でもフォローもしてこないし。僕の作品をお礼に読むとか一切なかった。媚びない、迎合しない人だと思っていた。でも、陰ではこんなに喜怒哀楽があって。そして僕が気付こうとしていればもっと早くにそれに気付けていた。僕はその人に対して、その気にさせては放置するという、とんでもなく酷いことをしていたのかなあ。罪の味。僕の頭の中で小林聡美さんともたいまさこさんがポンポンを持って踊っている。取り返しのつかない罪。何様だ。その人はお前なんか一ミリも気にしちゃいないから。勝手に罪悪感なんぞ持ちやがって。ホント何様?でも僕は心の中で決める。同じことを繰り返すのはカッコ悪い。今度こそは。無様を晒したっていい。勘違いの暴走男でもいい。ダメだったらその時は潔く諦める。でも、でも、その人に僕の気持ちを絶対に伝える。この恋は、その人がお姫様であり。僕はねるとんで頭を下げて手を出してお願いする人。日毎に増える僕のツイッターアカウントの固定ツイのアクティビティ数だけが微かな望みを繋ぐ。


 ストーカーと呼ばれてもいい。待っていてください。


 恋をするとなんだか強くなった気がする。笑われたっていい。今の僕は槍一本で風車にだって立ち向かう。

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