第13話 恋二酔ウ、自分ヲ磨ク

 その人のツイッターアカウントをエゴサするようになって。頭の中はその人のことばかり考えている時間が増えてしまい。普通の人が見てもなんてことのない呟きに一喜一憂する僕。お酒は普段飲まないけれど、特別な日には少しだけ飲むその人。クリスマスイブにほろ酔い加減の呟き。そうかあ、僕もお酒は強くないもんね。一緒一緒と喜ぶ僕。仕事帰りに、まあ一杯、とかない僕。飲み屋よりも喫茶店の方が好きなその人。いい、すごくいい。紅茶の美味しい喫茶店でラブラブな話をするのっていいよねえ。はい、有罪。タバコ吸う人はNG。なんだって?僕はタバコをかなり吸う。咥えタバコでパソコンのキーボードを叩く。僕は書き手にとって書く環境はとても大事だと思っていて。まず音楽。集中できる音楽。文字通り、音、を、楽しむ。だから歌詞のあるものはかけない。インストかクラッシック。ガチで。バッハとボレロは本当におススメ。曲も長いから途中で選び直す無駄もない。そして飲み物。業務用スーパーでコーヒーとか紅茶とか買うようになり。拘る。急須もいくつか持ってたりして。透明な急須は紅茶の透明感がいい。あとお茶も。逆に牛乳を入れる飲み物はマグカップ。マイマグカップ。冷たい牛乳もマグカップに注いでレンジでチンするとすぐにホットミルクになる。ミロやココア、カフェオレ、コーンスープなど。おかわりに席を立つのが気分転換になり。オレンジジュースやマミーとか紙パックのものを買う。そうなるとコップの下のコースターにも拘りだして。お一人用の鍋なんかもコースターの上に置いちゃったりして。まあ、それほど書く環境作りは大事であり。そして僕にとってはタバコもその一つであり。灰皿も百均でいいなと思えばどんどん買ってきて。タバコ、ダメかあ、と思う僕。禁煙しようかな。タバコと言えば尊敬するアメリカの小説家、ジャック・ケルアックの言葉を思い出す。


 タバコは穏やかな自殺


 僕はその言葉を知った時から、タバコを止めない理由を聞かれたらケルアックの言葉をそのまま使っていた。でもその人には通用しないでしょ。ツイートをさらにエゴサする。煙が嫌い、喫煙する人と結婚はしない、と。まあ、どんな言い訳をしようと止めないと、だ。恋をすると健康になるのだ。


 恋は穏やかな健康


 エゴサをすることはその人のことが知れて楽しい。でも僕は大事なことにここで気付く。その人の外見のことなど問題ではない。じゃあ逆。僕の見た目はどうなのか?と。こんなに自分のことを思ってくれるのは確かに嬉しいことなのかもだけど。僕の外見はどうなのだろうか?見た目は?それに気付いた時にはもう自分の中で論争が巻き起こる。不細工ではない、と思うけど。おいおい、どのツラ下げてそんなことが言える。いやいや、芸能人のあの人に似ていると言われることがよくあって。それはお世辞だろ。太ってもいないし。それで?平均的には太っている方だろ。いや、健康診断でも中性脂肪はクリアしてますが。その横っ腹で?僕は一か月で十キロ近く痩せた。野菜は0カロリーなのだ。毎日、野菜と豆腐だけを食べて過ごした。豆腐は温めると腹持ちがいいって噂は本当だった。背は高くもなくて。低くもなくて。そうかな?僕の主張場面で証人を呼ぶ。背はまあ低くても優しい人は釣りが趣味ならオッケーでしょう。でも本当に百七十センチ以上ならいいのでは。業務用スーパーでタバコの臭いを消すお口くちゅくちゅを購入する。どんどん加速する僕。部屋がどんどん綺麗になっていく。キッチンを綺麗に掃除したり、便器を綺麗に磨いたり。洋服も清潔感のある麻素材のシャツなんか買ったりして。一人の時間、鏡を見ることが増える。角度を変えては決め顔をしてみる。スマホで自撮りモードに挑戦してみる。びっくりする。自分の顔を下から映すと恐ろしいことになると気付く。僕は顎を引いて外を歩くようになる。幸い髪の毛はまだちゃんと健在であり。美容院へいく。白髪を染めてもらう。ロン毛を軽くすいてもらう。そう、僕の髪の毛は長い。結べるほど長い。ちなみに同級生はハゲてる奴が多い。そういえばよく言われる。声が幼い、とか、見た目が幼い、とか。僕の顔は童顔だ。瞼も二重どころか五重ぐらいあって。そんな時にその人のツイートを見つける。外見は気にしない人らしい。でも、カッコいい方がいいと思う。リバウンドしないように食生活はそのまま。野菜生活を続ける。よく考えてみたら、僕はお風呂上りには乳液で顔を、パンパンと叩く男だったし。そうなると別のことも考えるようになり。経済力とかも大事だとか。僕はお金を浪費しない。一緒になると食費も二人分になるのかなあ、無駄に広いこの部屋になら、お風呂も広いし、その人の部屋だって確保できるし、キッチンではゆっくり出来る四人掛けのテーブルもあるし。僕の考え方ってジョジョ四部のラスボスの人に似てるような。エゴサでは見つからないその人の年齢。僕は文字を書く人間だ。ストレートにエゴサをしてても見つからない。魔法の言葉はいくつかある。そして僕はその人の年齢を知る。僕の三つ下。その人のことをどんどん知ることの罪悪感。ネットを見る。小説家はネットの知識に頼ってはならないと僕は思っていた。ネットには本当のことは載ってない、と。リアルは自分の経験に宿る。本当の知識が必要なら取材をする。専門的知識を持つ人に。小説家はネットに頼ってはならない。そんなルールで生きてきた僕はグーグル先生に、顔の知らない人を好きになる、と聞いてみる。するとヤフー知恵袋先生が教えてくれる。顔を知らない相手を本気で好きになれますか?と多くの質問。ベストアンサー、まあとりあえず落ち着いて、自己陶酔の世界から抜け出しましょう。僕はイラっとする。僕は酔ってなんかいない、と。別の答え。ネットの方が相手の倫理観が分かりやすいし、むしろ相手と本質的なものを共有できる感覚が強いと思います。僕はそれを読んでスタンディングオベーションで拍手をした。ネットには人生の達人が存在する。僕は少し考え方を改めるようにした。小説家は柔軟さも大事だ。

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