第14話 許サレヌ恋、書キ手トシテ譲レナイ想イ

 僕の中の陪審員が呆れている。その人のツイッターアカウントをエゴサ。エゴサって五個までは履歴に残るんだ。しかもそれを消去すると前のが出てくる。ツイッターの隠れた機能にこんなことで気付く僕。一番大事なこと。いや、肝心なこと。付き合っている人とかいるのかなあ、と。滅茶苦茶だ。ツイッターの運営も気付いたら僕を一瞬で凍結させると思う。ツイッターに職務質問機能があれば捕まる。でも気になるから。大事なことだし。僕は最初に決めていた。もしその人に、彼氏とか、旦那とか、お付き合いしてる人がいたら僕は身を引く。当然だ。何故ならば、その人の物語に僕の出番はないってことだ。そしてエゴサする。でもすぐに気付く。その人にはそういう人らしき存在はいない。それどころか、人の気配がない。その人はリアルとネットを完全に切り離している人なのだろうか。彼、お付き合い、元、好き、そして、愛してる。エゴサにはそれらしいのがヒットしない。メディアのところを見てみる。好きなパンがあったから買った、とか、今日の夕食、とか。インスタとか僕はやらないけど。これって言葉は知っている。インスタ映え。映え意識のツイートなのか。でも、いいね、がついてない。フォロワーだってそれなりにいるのに。誰も、いいね、を押さないの?でも、その人は、いいね、とかいらないと思っている人なのかなあ。いいねは自己認証欲求。その人は自己認証欲求がないのかなあとか考える。いや、いいね、を押すのはその人以外の人だから。あんまり意味が分からない。でもその人は、そういうのはどうでもいいと思っているのかと。小説家志望なら分かる。自分が書いた作品に対する評価以外はどうでもいい。反面、感想には死ぬほど飢えていて。自分の書いた作品を自分で評価することは不可能だから。誰だって自分の書いた作品を絶賛する。そういうもんだと思う。でなきゃあSNSであれだけ自作の宣伝はしないと思う。画像を見続ける。いろんなその人を知ることが出来る。あのミュージシャンが好きなんだ、とか、あの作家が好きなんだ、とか、料理が上手なんだ、とか。でも料理はいつもおひとり分。その人も僕と同じで自分の時間はほとんど書くことに費やしているのかなあ。色が付いたその人を知る。写真はその人の生活を切り取ったものであり。たまにノートの隅っこに絵を描いてるその人。絵心があると思う。女の人って昔から絵とか上手い人多いもんなあ、あれってなんでだろ?とか考える。そして。海外の昔の文豪のハードカバーの本が。洋書も読むんだ。でもその人のツイートから知る。その人は何人かの小説家から影響を受けているそうで。その小説家は僕が尊敬する海外の小説家とはちょっと違って。僕が読んだことのない人の作品ばかりで。そしてその人は書き手としてすごいのに、読書量も半端なくて。僕は本が読めなくて。文字も読めなくて。自分の書き方をしっかりと持っていながら、これだけの読書量を今でもこなしていることに驚く。すごい。でも読書好きな人はこれぐらい読む人は普通にいそうでもあり。書くのは遅いけど読むのは速い人も実際には多数いて。だから本を読めない僕は劣等感を覚える。その人と一緒になるには、僕も読書を好きにならないといけないのか、と。そしてここまできて。僕はとんでもないことに気付く。この恋が許されない恋であることを。僕はその人にこれまで、純粋に作品を読んで、いいなあと感じたわけであり。その人との出会いとなった作品。あの楽しそうな文章。その綴られた文字が輝きを放っていたのは事実であり。そして二次選考を突破しなかった作品。切なくて、胸が締め付けられる物語。ゴースト、ニューヨークの幻。あの誰も気付いていない間に文学のモンスターが着々と力をつけていることに、僕だけが気付いているようなあの感覚。作品には真摯に向き合ってきた。それが礼儀であり、書き手としてのプライド。大事にすべきもの。でも。僕がその人に想いを伝えたとして。その人はこう思わないだろうか。


 作品がよくて良い評価をしてくれたのではなく、自分に気が合ったからそんな評価をしてくれたのでは?と。


 僕はその人が好きであり。でもそれを伝えると過去の評価を否定することになりかねない現実。違うんです。作品への評価は別物なんですと僕が訴えたとして。誰がその真偽を知ることが出来るのか。それが出来れば、あのカミュの異邦人だって、裁判でもっと自分の身の潔白を訴える。じゃあ、ムルソーのように、太陽がまぶしかったから、と言えば解決するのか。しない。僕がその人のことを思えば思うほど、その人に送った評価や感想、コメントは、ズルいものになっていくようで。僕は困った。顔を知らない、とか、名前も知らない、とか。そういうのも乗り越えてきた僕の気持ち。書き手だから譲れない想い。ここで僕は心の中で痛感する。


 この恋は許されない恋だ、と。

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