第6話 ジレッタイ思イ、書クコトノプライド

 実はメインのネット小説のサイトの方にはツイッターとリンクする機能があって。そしてその人は創作アカウントを持っていて。まだその人のことを全く意識していなかった頃に、僕はその人のツイッターアカウントを覗いてみたことがあった。でも普通の女性の書き手の日常アカウントと呟いていることはそんなに変わりはないように僕は感じて。晩御飯を作ってみました、だとか、推しのアイドルが素敵、だとか、最近読んだ本の感想だとか。その人に異性として興味を持っていなかった僕は一回見ただけで、それからしばらくその人のツイッターアカウントを見ることをしなかった。単に興味がなかったからだ。そして忘れた頃に新作の短編を読んでは、少しでもいいと思ったら作品をフォローしたり。コメントを送ったり。レビューも二作だけ送ったりして。そして半年とか一年ぶりにツイッターアカウントの方を覗いてみて。その人の呟きを見て少しだけ、おや?と思う。その人は本気のガチで自分がいつか小説家になると信じて疑っていない。それを見て僕は思う。世の中はそんなに甘くないよね、と。まあ、その人の書く小説のレベルは高いと思う。でも今風じゃない。長文タイトルでもない。チートもハーレムも書かない。そんなものは僕も書かない。エロも書かない。僕は必要だと思ったらエロを書く。でもその人は書かない。例えるなら、昔の海外の作家さんとちょっと前の少女漫画テイストをまぜまぜした感じ。文章は上手だと思うし。少なくとも僕はその人の書く作品の方がランキング上位だとかの作品よりもレベルが高いと思ってるし。それは洋書で育った僕の感性であり。実際に世に受けるのは僕やその人が書くようなものではない作品であり。それでも一年ぶりに見た呟きでは。ガチで公募に出した作品がまた一次も通らなかったことに落ち込んでいて。僕は思う。だってその人が書く作品は迎合してないからだ、と。僕が編集者だったら。いいと思う、けど売れないと思う、と言うだろう。その頃には僕はその人に対してじれったいと感じるようになっていた。異性としては一ミリも意識はしてなくて。ただただ、じれったい。そんなに落ち込むんだったら作風を変えればいいのに。迎合すればいいのに。ネットの方でも読まれないとか呟いているのも見た。そりゃあ当然だと思う僕。その人は媚びないから。誰かの作品に星を送ったりだとか、感想を書いたりだとか、そういうことを一切してないからであり。読み合いの自主企画でその人と出会ったのだけど、それ以降はその人も自主企画には参加していないし。そんなことを思う。じれったい。でも考える。僕も受けるために作風を変えようとは思わない。自分の書き方が正しいと思っているから。迎合もしたくない。媚びたくないから。じれったい。少しだけ意地悪な感情も芽生える。その人のことを負けたくない書き手と認めていたし、自分と似ているとも感じていた。けれど。書き手としての本能が僕に囁く。じゃあその人と僕とではどっちが書き手として上なのか。僕は当然のように自分は負けてないと思う。僕は書くことで人に負けたくない。一日に書く文字数、公募時代の言い方なら枚数、一時間に書く文字数に自信があった。書き終わってもすぐにネットには上げない。上げる前に声に出して二回読み直す。誤字脱字、てにをはミスがないか、助詞が連続していないか。人に作品を読んでもらうということはそういうことだ。汚いやっつけの文章を読ませることは書き手の恥だ。それらをこなしたうえでの書き手としてのプライドってやつ。でもその人の呟きを見て気付いたことがあった。僕がその人に負けているところ。その人は強く自分を信じている。自分は絶対に商業として小説家になるという気持ち。今の僕にはそれがない。散々壁にぶち当たって来た。そして考え方が変わるのを自分で許していた。下読みがクソだとか、今の自分の作風だと売れないのは分かっている。でも売れるものより自分の書く小説の方がレベルは高いだとか。商業作家?勝手にほざいてろ、この一発屋が、とか。でもそれらはすべて負け犬の遠吠えであり。その人は少なくとも負けを認めていなくて。じれったい。その人が世に出る時代ではないと分かったような気になっていたから。


 遅筆です。誤字脱字多いです。読んで感想をくれたら泣いて喜びます。


 僕はそんな言い訳の多いプロフィールの書き手を山ほど見てきた。その度に、うちのラーメンは不味いです。提供時間も遅いです。近くのコンビニでパンやおにぎりを買ってきてそれを食べながら待っててください。只今絶賛営業中、と看板に書いてあるラーメン屋に入るのか?と意地悪なツッコミを心の中で入れる。その人の作品や呟きからはそういう意地悪なオーラは少しも感じない。だからイライラするのかなあ。じれったいのと自分以外のものに責任を擦り付けない変な潔さ。だったら僕が感想を書くよ。でもそれはその人が異性として気になるからではない。じれったいから。そしてさっさと世に出て欲しいと思ったからであり。感想が欲しい。けど作品が読まれないともその人は呟いていたから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る