雪国の猟師(ハンター)

1話

いつも通りの社長室。朝のコーヒーを飲む秋人。

「おっはよ~、さねちー。はい、僕特製ブレンド名付けて雪兎スペシャル。砂糖とミルクがたっぷり入った甘々のコーヒーだよん」

「な、何で君がここに⁉」

 コーヒーを吹き出しそうになる秋人。

「えへっ、来ちゃった」


「という訳で、彼が冬月雪兎君です」

「いやいや、何が、という訳なんだよ。一体何者なんだい?」

「さねちーの大親友(嘘)でぇす」

「さねちーって、君そんなあだ名なの?」

「烏丸さん、笑わないで下さい。そう呼んでるのは彼くらいなんで」

「で、何故、一般人が、この事務所にいるのですか?」

 紫子が訝しむように聞く。

「そ、それは……」

「あ、うん、飲み会の時に、さねちーがポロッと言っちゃったの」

「真葛君、君って奴は……」

「一応、機密のはずなんですがねえ」

「うーん、さっきから気になってたんだけど、この人どっかで会ったことある気がするんだよね」

 雪兎は烏丸をジーっと見つめる。

「あーっ、撫子さんの結婚式で会った人だ!」

「えっ」

「ナ、ナデシコさん?」

「うん。逢坂撫子さん。スピーチしてくれた人だよね」

「ああ、逢坂君の結婚式の時ね。あの時、スピーチを突然お願いしてきた。じゃあ、あの時、スピーチをブッチしたアホっていうのは……」

「な、何ですか。あの時は僕だって色々あったんですよ」

「知らず知らずのうちにすれ違っていたって訳だ。世間って狭いねぇ」

 そこへ起きたばかりの憂が目をこすりながら姿を現す。

「あ、あんたは……」

「あ、お兄さんだ♪」

「お、お兄さん?」

「兄弟だったんですか⁉」

 驚く連太郎。

「いやいや、そんな訳ないじゃん。僕の方が2つ上だし。そう呼んでるだけだよ」

「何でそんな呼び方してるんだよ。ていうか、君達は何処で知り合ったの?」

「だって、この人、吉野のお兄さんだもん」

「吉野って、ああ、有明吉野君のこと?」

「そう、それ!」

「あのー、内輪の話はよく分からないのですが」

「えーっと、つまりは……」

 秋人は以前、弟の吉野と出会ったことを説明する。

「なるほど、確かに世間は狭いですねえ」

「で、何で君がここにいるんだい、雪兎君?」

「うん。実は困ったことになってさ……。このままじゃ僕、殺人犯にされるかもしれないんだよ!」

 雪兎宅で殺人事件が起こった。その犯行で使われたのが雪兎の猟銃だった。

「猟銃ちゃんと管理しとかないとダメじゃん」

「うん。まあそれは面目ない」

「で、何でこんな事件が起こったのさ」

「僕んちって、たまにホームスティ受け入れてるじゃん」

「じゃんって言われても初耳なんだけど」

「うん。まあ最近始めたし。で、起こったのが、この事件です」

「もっと詳細を言えよ!」

 雪兎が言うことには、一昨日の晩から渡辺夫妻が泊まっていて、昨日、雪兎が寝ている間に、口論の末、奥さんが旦那さんを側にあった猟銃で撃ち殺したそうだ。いつの間にか奥さんは逃げて、残ったのが凶器の猟銃と旦那さんの死体、家の主の雪兎ということになっている。

「今、雪兎君の家はどうなってるの?」

「死体にビニールシート被せてあるけど」

「それで?」

「それだけ」

「まさか警察にも言わずに、ここに来た訳?」

「うん。だって、さねちー、警察の関係者でしょ。僕をいきなりしょっぴいたりはしないと思って」

「では、北海道に行くしかありませんね。道警には私から行っておきます」

「おっ、この可愛い子が指揮官。いいね、アニメみたい」

「君は自分ん家に死体があるっていう自覚持って」

 紫子は雪兎から住所を聞き出し、先に道警を向かわせることになった。

「ええ。ドアは壊しても構いません」

「え~、僕のマイホームが~」

「仕方ないだろ。君が死体放置して、こっち来ちゃったんだから」

「ちなみに何か罪に問われたりしますか、弁護士さん」

「死体遺棄罪かな」

「えぇ、何とかしてよぉ」

「それは僕に仕事を依頼するってことでいいかな」

「僕からもお願いします、烏丸さん」

「その前に、何で僕が弁護士だって分かったんだい。まだ言ってないよね」

「ああ、それもさねちーが喋ったから。すごいイケメンの弁護士さんが顧問になったって。そりゃあもう嬉しそうに。あとバッジ付けてるし」

「真葛君……」

「す、すみません」


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