ある日の憂
前編
一週間ぶりに外に出た。
暑い、クッソ暑い。確か天気予報で、今日は最高気温三十九度の真夏日だって言ってたな。世間ではまだ夏休みにもなっていないというのに、何故こんなに暑いのだろう。マジレスすると、地球温暖化のせいってことになるのだが。
では、何故こんな暑い日に年中夏休み、出来るなら外になんか出たくないというヒキニートの俺が外に出ているのか。
それは、好きなアニメのイベントが行われるからだ!
まあ、俺が外に出る理由なんて、これか紫子さんからの呼び出し以外にはないといっても過言ではない。外に出るのは正直しんどいが、せっかく沢山のアニメが放送していてイベントもけっこう開催される都内に住んでいるのだから、その利便性を有効活用しない手はない。それに、ただのステージイベントだけなら俺は行くのを止めたかもしれない。目当ては会場限定販売のグッズである。勿論、声優さんのステージも楽しむつもりだが。
北海道の自宅住まいだった高校生までは、東京ばかりで開催されるイベントに高い交通費を払ってまで行く勇気もなく、大学に通うため東京で一人暮らしをするようになってからも、日々の生活費を出すのに必死でイベントに行く余裕もなかった。大学を中退した後の自宅生活の時でも、家族に申し訳なくて外出なんてほぼしなかった。
そんな俺がイベントに行けるまでに成長したのは、「gift」で培った(培わざるを得なかった)対人スキルのおかげである。
どうにか時間を潰そうと、モノローグを長めにしてみたが、そろそろ話を進めないとクレームが来そうなので進めようと思う。
現在、俺は物品コーナーで目的の品を買い終え、ステージが始まる時間を待っている。俺が持っているのは夜の部のステージチケット。それが始まるまで、けっこうな時間がある。というか、あと約四時間。一旦家に帰ろうかとも思ったが、またあの電車の中を何回か往復しないといけないのは嫌なので止めた。
昼ご飯ついでに、何かいい具合に暇潰しの出来る場所はないかと、会場周辺を汗を流しながらグダグダと歩いている、という状況である。
ちょうどいい店ないかなあ。土曜の昼時か……。ファミレスは家族連れが多そうだから、ぼっち参戦はキツい。
カフェは一人でも良さそうだが、俺がカフェのおしゃれな雰囲気をぶち壊しそうなオタク丸出しルックだから却下。
食事だけでも誰か誘うのはどうだろう。紫子さん「ああ、憂さん。アニメのイベントですか。どれどれ……。あ、はい、楽しそうで何よりですねー(棒読み)」駄目だ、イベントの戦利品を掲げた俺を見せれる訳がない。しかも萌えアニメ。もっと万人受けのやつだったら、まだマシだった。連太郎君「ごめんなさい。せっかくの憂さんのお誘いなのに、バイトが入ってて……。もし良ければ今度一緒に何処かにお食事に行きませんか? 今日の埋め合わせも兼ねて」彼にこれ以上、気を遣わせる訳にはいかない、却下。ドクター「え、食事? アンタと二人っきりなんて、イヤよ。せめて紫子ちゃんが付いてくるなら考えてあげなくもないけど?」弁護士殿「君と僕で食事? 何それ、本気で言ってるの? それにわざわざそっちまで来いなんて、何様のつもりだい、有明君。君のために使う時間ほど無駄なものはないと思うんだけど」社長「え、食事? てゆーか、そんな場合じゃないんだよ。僕は君と違って暇じゃないの。今日も会社で打ち合わせがあるの。君に構ってる時間なんてないよ。ああ、あと僕の昼食はカロリーメイトって決まってるから。じゃあね」……こんな会話が容易に想像できる。
クッ、仕方ない。やはりぼっち参戦か。それとも昼飯抜きか。ま、一食抜いたくらい大丈……。
ぐ~きゅるるるる~。
神懸ったようなタイミングで、俺の腹が鳴った。そして更にスゴイ事に、俺の足はMのマークの某ファストフード店に辿り着いてしまった。美味しそうなハンバーガーの広告が食欲を増進させる。
ぐ~、ともう一度、腹が鳴る。どうやら俺の身体は全身で食料を欲しているらしい。
これはもう、行くしかないだろう。
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