立てこもり事件

1話

紫子は連太郎、憂とショッピングモールに買い物に来ていた。

「服を見てもよろしいですか?」

「はい、いいですよ~」

「うん」

 紫子は女性服の店に入った。連太郎は続けて入るが、憂は女性服売り場に入るのを躊躇ってしまう。

「憂さんも来て下さいよ」

「え、あ、うん」

 憂は照れながらも、紫子の服を一緒に選ぶ。

「これなんかどうですか?」

「あら、可愛いですね」


 服の買い物を終え、食品を買おうと下の階に行った時だった。


ショッピングモール立てこもり事件が起きていた。


 犯人は人質の女性を腕で掴みながら、ナイフを振り回し、叫んでいた。

「俺は死刑になるんだ!」

 遠目から見ていた紫子は警察に連絡した。

「さて、応援が来るまでの間、どうしましょうかね」

 まずは人質の安全だ。

「すみません。人質替わってもらってもよろしいでしょうか?」

 紫子は挙手して犯人にアピールした。

「何でだ!」

「その方は一般人ですので」

「じゃあ、お前は何なんだ?」

「警察です」

 紫子は警察手帳を見せる。

「警察だと⁉」

「どうせなら警察を人質にしてみませんか? その方が罪は重くなります」

 嘘だった。

「分かった。俺は死刑になるんだからな!」

 馬鹿で助かったと思った。

「ちょ、紫子さん」

 憂と連太郎は止めようとしたが、紫子は立てこもり犯の方へ向かって行った。

「では、よろしくお願いします」

 解放された女性は紫子に頭を下げて去って行った。

「少し、お話しましょうか」

「は?」

「立てこもり犯さんだと味気ないので、お名前を教えていただけますか? 仮名でも構いません」

「……鈴木」

 仮名っぽいな、と紫子は思った。

「では鈴木さん、あなたは所謂、無敵の人ですか?」

「む、無敵の人?」

「最近、話題じゃないですか。もう死刑になりたいから、どうなってもいいみたいな」

「ああ、そうだな。悪いか」

「悪いですよ。あなたの勝手に関係の無い人を巻き込まないで下さい。死にたいなら、そのナイフで頸動脈を切って、一人でどうぞ」

(紫子さん、こんな挑発をして大丈夫か……?)

「おま、何だとっ⁉」

 鈴木が激昂し、紫子の首にナイフを突き刺そうとした瞬間だった。

 男が飛んでいた。

 見ていた野次馬は、ポカンと口を開けていた。

 紫子が合気道で、鈴木を投げ飛ばしたのだ。

「う、が……」

「あれ? やらないのですか? 見ていてあげますから、ほら」

 床に転がったナイフを渡しながら、紫子は言う。

「お、俺は……」

 鈴木はナイフを受け取らない。

「死ぬ勇気もないんじゃないですか。ヘタレポンチ野郎ですね」

「へ、ヘタレ、何だとっ⁉」

 鈴木が拳を振り上げる。紫子はそれを腕一つで止めて言う。

「別に、あなたが死んでも誰も困りません。でも、この方々が死んだら悲しむ人がいます」

「お、俺にだって病気の母ちゃんがっ」

「いるんじゃないですか、大切な人が。悲しませてはダメですよ」

 ここで警察が到着し、立てこもり犯・鈴木は連れて行かれた。

「この場合、どうなるんだ?」

「銃刀法違反と脅迫罪くらいですかね」

「病気のお母さんは大丈夫でしょうか?」

「その辺は行政の見守りシステムとかを使っていただいて」

「それなら良かったですぅ」

 紫子は警察に事情を説明し、帰途に着いた。

「折角の休日なのに働いてしまいました。コナンってこんな気持ちだったんですね」

「それは笑えない冗談だな」

 実際に、紫子の周りでは事件が起きている。

 これでも、なんちゃってミステリーの端くれなのだ。


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