4話

いじめ加害者側は、断固として認めようとしなかった。


全校集会が、いつも通り終わろうとしていた時だった。

「お前ら聞け!」

 俺は壇上に立っていた。

「よく分からん奴が喚いてるように思うが、聞け! この学校で自殺が起きた。原因は、いじめだ。心当たりあるやつはいるはずだ。ここへ来て土下座しろなんて言わねえ、だけど心を入れ替えろ。お前ら、もっと優しくなれよ! 人の気持ち、考えて行動しろ! 困っている人がいたら手を差し伸べろ! それだけで変わる。それだけでいいんだ。あと、大人共! 臭い物に蓋をするんじゃねえ。何か辛そうな生徒がいれば、仕事なんかほっぽり出して助けにいけ。陰キャの気持ちも考えろ。今が辛いなら、そこから逃げたっていいんだ。今いる場所だけが全てじゃない。頑張り続ける必要なんてない」


 紫子は止めに入った教師を制する。

「おい、紫子、有明に何かしただろ」

 異変を感じた向井が紫子に詰め寄る。

「お酒を飲ませました」

「へ? 酒?」

「お酒を飲んだ憂さんは、いつもより饒舌になります」

「面白いから動画に撮っておくわ」

 和泉がスマホを憂に向けている。


「俺はニートのクズ野郎だけど、それなりに楽しく生きてるぜ。俺の言ってることなんて、ただの戯言だし、お前らには何か訳わからん奴が喚いてるようにしか見えないかもしれない。でもこれだけは言っておく。勇気を持って生きろ! バカヤロー!」

 俺は壇を軽く蹴って、マイクも投げ損ない、カッコ悪く去った。

 


 杏奈をいじめていたとされる数人から謝罪があった。心からのものか形だけのものか分からない。刑事告訴はされなかった。

 いじめ事件は煮え切らないまま、これにて終幕となった。


「カッコ良かったよ」

 校門から出る時、蒲生さんがそう言って、送りだしてくれた。

「俺、高校生じゃないんだ。ただのクズニート24歳童貞」

「そうなんだ。……頑張って」

 何に対しての「頑張って」なのかは分からないが「おう」と返事だけしておく。


 こうして、俺達は学校を去ったのだった。


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