3話

次の日もまた蒲生さんと、お昼を一緒に食べた。今日は紫子さんも一緒だ。

「私が悪いんだ。私は杏奈を助けられなかった」

「そんなことはないと思いますよ。あなたは彼女のオアシス的な所になっていたはずです」

 紫子さんは蒲生さんを慰めていた。

「あなたに、いじめのことは話してないのですか?」

「杏奈、やっぱり、いじめられてたんだ……」

「まだ確定事項ではありませんが」

「杏奈をいじめたやつ、許さない!」

「先ほど『やっぱり』と仰いましたね。何か思い当たることでもあるのですか?」

「杏奈、クラスに友達いないし、時々、暗い顔してたから……」

「暗い顔、ですか……。例えば、どんな時にしていたか、思い出していただけますか?」

「体育の授業の時とか。あれ二人組作れとか、よくやるじゃん」

「ああ、あるな」

「杏奈、いつも余ってるみたいなんだ。それに運動は苦手だし」

「よく分かるよ。俺も余って先生と組んでた」

「でも勉強はできるから、私教えてもらってたんだ」

「そうだったのですね」


次の日から、紫子さんが積極的にクラス内聞き取り調査を始めた。生徒達は嫌でも、この転校生がいじめの調査をしに来ていることに気付いた。

 傍観していたクラスメイトの証言から、いじめの首謀者は三名に絞られた。その三名からの自白を聞きたいところだが、のらりくらりと、かわされた。

「いじめをやっている側は、自分がいじめをしていると自覚していないことが多いのです。いじめられる方にも理由があると思っているから、自分が悪いという感覚がないのです」

「学校側もそうね。杏奈ちゃんは一人が好きな子って先生が決めてかかってる気がするわ」


 紫子さんは学校内と並行して学校外の繋がりの聞き取りも行っていた。

 家族との中は良好だったため、杏奈の家族は、彼女の自殺を皆、悲しんでいた。

 特に、母親は憔悴しきっていた。

「杏奈ちゃんがいない人生なんて考えられない! 私も死ぬ!」と言って、後追い自殺を試みたこともあったそうだ。その時は夫が止めたので、事なきを得た。


 次の日。

「杏奈とは塾が一緒だったんだ」

「そこから仲良くなったのか?」

「うん。同じ学校の子あまりいなかったから、私から話しかけたの」

「そうなんだ。塾での様子はどうだった?」

「どうって、普通だよ。普通に勉強して、帰りは最寄り駅まで一緒に帰ったり」

 ギャルの蒲生さんが真面目に塾に行っているというのが意外ではあった。

「杏奈、すごいんだよ。テストで毎回トップ10に入ってるし、医学部目指してるんだって」

「それは、すごいな」

 俺も学生時代のテストではトップ10入りを何度か果たしたことがあるが、本当にキツい。それを維持となると尚更だ。しかも医学部志望とは、すごい。


 娘を失った母親には継続的なカウンセリングが必要と判断され、実際のカウンセラーが付いた。最初は錯乱状態に近かった母親も、段々と正気を取り戻していき、話をしてくれるようになった。

「私の期待が重かったのかもしれません」

 母親からの過度の期待、これも原因の一つだったかもしれない。


 人の心はコップみたいなものだ。

 人によってコップの大きさは様々で、それが決壊すると心身に不調をきたす。

 杏奈もきっと、いっぱいいっぱいになってしまって、自分で支えきれなくなったのだろう。


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