後編

三日目。

担当:紫子、憂、向井。

新人賞の審査のため編集部に向かった。

 編集者と共に現れた羽鳥まりん先生は仮面舞踏会でも行くかのような仮面を被っていた。

「昨日はアニメキャラのお面だったそうですよ。一体いくつ仮面を持ってるんでしょうね」

「俺に聞かれても知らんが」

「昨日は雑誌のインタビュー、今日は新人賞の審査、一体いつご自身の著作を書いているのでしょうね?」

「一日目だと素顔が見れて」

「え、見られたんですか、羽鳥まりん先生の素顔を⁉」

「ああ、まあ普通に、カフェでの打ち合わせだったから。森はえらく感激してた。で、その見た目から羽鳥まりん先生は中学生くらいの少年じゃないかと思ったんだよ」

「中学生でベストセラー作家ですか。学生生活も忙しいでしょうに、天才ですね」

 向井は「お前も大概だがな」という言葉を飲み込んで「そうだな」とだけ言った。

「羽鳥まりん先生の素顔を知っているのは編集さんと向井君と連太郎君と真葛さんだけということになりますね?」

「俺の知る限りでは、そうなるな。編集部にもう少し知ってる人がいるかもしれない」

「あとは家族とか友人にもいるかもしれないですね」

「確かに、家族にも秘密ってことはないだろうが」

 羽鳥まりん先生への秘密は尽きない。



 四日目。

 担当:烏丸、真葛、斎藤。

この日は書店でのサイン会で、羽鳥まりん先生は馬面を被っていた。

「馬面かあ……」

「そういえば真葛君は羽鳥先生の素顔を見たことがあるんだっけ」

「そうです、一日目に。もうすごい美少年で! 顔出しした方が売れるのに」

「噂によると中学生なんだろ?」

「はい。中学生であんなに稼げる方法があるって気付けてたら、僕は……」

「気付けてても文才がないとダメでしょ」

「意外とあるんですよ、僕、文才」

 烏丸は「このドヤ顔ちょっとムカつくな」と思いつつ、話を聞く。

「ビジネス本でベストセラーを取ったことあります」

タイトルは『簡単にお金儲けが出来ると思うなよ!』である。

「ああ、知ってるよ」

 烏丸は真葛の顧問弁護士をしているから、彼の著作は一通り目を通している。


 サイン会が始まったので、斎藤は警戒を強める。

 整理番号順に列形成がなされていく。

「あれ、連太郎君じゃん」

 サイン会の列に知ってる顔を見つけた真葛は手を振る。

 すると連太郎が手を振り返して静かに微笑んだ。

「用事ってサイン会だったんだね」

「普通にファンだね、ありゃ」

 羽鳥まりん先生は華麗な手捌きでサインを書いていく。


 サイン会の午前の部が終了した。

 書店のスタッフルームで昼休憩を取る。

 羽鳥まりん先生も同じ部屋で休憩をしている。

 烏丸達が昼ご飯を食べる中、羽鳥まりん先生は一人静かにスマホと向き合っていた。

 馬面を取って昼食を取るという選択肢はないらしい。

 烏丸は羽鳥まりん先生の持っていたスマホのケースに見覚えがあった。

 それに顔以外の身体つき、雰囲気にも……。

「……和(なごむ)?」

 確信はなかったが聞いてみる。

「兄さん……」

「バレてしまったか……」という風に馬面を脱ぐ。

 確かに烏丸凛と二人で並んでみると、似ているところは多々あった。

「えっ、烏丸さんの弟⁉」

「そう、僕もまだ驚いてはいるんだけど、羽鳥まりんこと烏丸和は僕の弟だよ」

「イ、イケメン兄弟⁉ すごい! 写真撮っていいですか⁉」

「写真はちょっと」

 凛がマネージャーのように和の前に立ちはだかった。

「すみません……」


後日、ネット掲示板で書き込んだ犯人が特定された。

相手は会ったこともない無職の男だった。

動機はただの嫉妬だった。

「ほんのいたずらだったんだ!」

 刑務所に連れて行かれる時、男は叫んだ。

「いたずらだったとしても言っていいことと悪いことがある。それを肝に銘じて罪を償え」

 人前に顔を出せない和の代わりに、被害者家族として、凛が一言言いに行った。

 その様子を見ていた真葛は「何か烏丸さん怖い」と思った。



 その夜。烏丸家。

「まさか和がベストセラー作家だったなんてね。まさか僕より稼ぎがあったりして」

「…………これ」

 和は通帳を渡した。

「ふうん。いつの間に通帳なんか作ったの?」

「第一冊目の印税が入る頃。中1の時」

「親権者、どうしたの?」

「お祖母ちゃんに頼んだ」

「そっか」

 何で僕に言ってくれなかったの、と聞こうとしたが止めた。

 詰問みたいにしてしまうのは嫌だったからだ。

「和の本、僕にも後で読ませておくれよ」

「うん」

 和は笑顔で頷いた。


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