第5話

「それでは事情聴取を始めます」

 宮沢は紫子の対面に座らされる。

「ああ。といっても、俺にミキちゃんを殺す動機なんてないぜ」

「嘘は言ってない」

 憂は後ろの席から宮沢を見ている。

「何だ、そいつは。嘘発見器か」

「憂さんは心理学を学んでいます。人間が嘘を吐く時の仕草から証言が正しいのかを見ています」

「心理学ね」

「では、まず被害者の美山ミキさんについて、お聞きしましょうか」

「ミキちゃんは今、大学四年生。俺とは一年生の頃からの付き合いだ。一番付き合いは長いが、教員と学生の間だから、そこまで深い付き合いはないぜ」

「宮沢さんは天文サークルの顧問でしたよね」

「ああ。うちは星空観測のために、顧問が必要だからな。俺は天文学が専門だから、頼まれた訳。大学に来た6年前かな」

「森さんと高尾さんについても伺ってよいですか?」

「ああ。和馬は、うちのサークルの盛り上げ役って感じだな。連太郎は癒し系男子」

「犯行時、どちらに?」

「君の講演を聴いてた」

「それは、ありがとうございます。……その後は?」

「俺は研究室に戻って、連太郎と和馬は4限の授業。で、誰か証明できる人を連れて来いって言うんだろ」

「はい、その通りです」

 宮沢は研究室の事務所に二人を連れて行った。事務員は「ええ、宮沢先生は、その時間、ずっと研究室にいらっしゃいましたよ」と証言した。


 サークル棟に戻る。

「おい、連太郎。大丈夫か」

 連太郎は、ずっと放心状態だった。

「カウンセリングが必要ですね。……憂さん、よろしくお願いします」

「分かった」

 憂は連太郎の隣に腰かける。

「辛いだろうけど、何があったか話してほしい」

「…………ミキ先輩、うっ……」

「君の証言が何か事件を動かすかもしれない。何でもいいから話してみて」


「こう見てみると、意外と俺は冷静で、動揺しないのが不思議だ」

「自分よりショックを受けている方、森さんを見て、冷静になったのが正しいのでしょう」

「ああ、そうだろうな」

「森さんは、まだ話せる状態ではありません」

「連太郎が4限を受けてた証拠があればいいんだろ」

「ええ」

「だったら、受けてた授業のリアクションペーパーをチェックすればいい」

「あっ、俺もそれでお願いします」

 和馬が便乗する。

「お前、何受けてたんだ?」

「経済学です」

「連太郎は?」

「確か、古文読解だったと思う」

「連太郎、それで合ってるか?」

 連太郎に泣きそうになりながらも頷く。

「また研究棟に行くか。多分、担当教授もそこにいるだろうし」

 それぞれの部屋を確認し、教授に会い、リアクションペーパーの有無を確認する。

 結果として、二人のリアクションペーパーは、あった。

 しっかり最後の行まで書いている連太郎とは対照的に、和馬は二文ほどしか書いておらず、ただの出欠確認紙としての役割しかなかった。


「お前、ちゃんとリアクションペーパー書けよ」

 研究棟から戻った宮沢は、和馬に軽く注意する。

「すみませ~ん」

 和馬は軽く応じる。

「では、高尾さんの事情聴取を始めます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る