十四
「ちゃんとした記録全部なくなってる。報道とかどうでもいいのばっかり」
ファーリーは今朝ネットに放った検索ロボットの報告を表示させた。数百ものプログラムは、そのどれひとつとして五人の子供たちの詳細情報を持ち帰らなかった。
「入院して以降の消息がつかめない」ウォーデは頭を振った。
「こっちのコールにもリアクションなし」切断面の樹脂をこつこつ叩く音がした。なぜか痒いらしい。
「話できなくても連絡くらい取りたいのに」
「ほんと。コネクションそのものがないのはウォリー」
ぼくはちょっと考えて指示を出した。
「ファーリー、子供たちを捜すネットロボットを組んでほしい。今度のは検索ベースじゃなくて自律的に捜しまわるのを頼む。ウォーデとビクタは本土で動けるオートマトンを何機か確保しといて。ロボットの報告次第で実際に現場に行かせるから」
三人は口々に同意した。ウォーデがモニターをつつきながら言う。
「坊っちゃんは?」
「ぼくは寝てる……。嘘。子供たちの情報を洩らした奴を調べる」
「調べるって、もう分かってるんでしょ?」
「そうだな。確かめるって言う方が正確かな」
「じゃ、そっちはまかせます」
作業しているみんなを残し、ぼくは隣の部屋に行った。アルゴスのあったあたりの壁と床の色が変わっている。ちゃんと掃除しなきゃと思ってほったらかしだ。
マザーを呼ぶと、数分後にクラゲ型オートマトンがやってきた。ぬるりと入ってくる。
「いつも思うんだが、なんで素直に通信使わない?」
「今日はあなただけですか。みなさん隣で作業ですね」
マザーは答えない。いちいち説明しないよ、といった風だった。
「答えたくないならいいけど、どうするつもり? 子供たちの情報消したな」
「施設が襲撃を受けたため、機密保持のためやむを得ませんでした。ただし、オリジナルは保存していますので失われてはいません」
「そういうストーリーなのは分かった。じゃああの子たちはどうなる?」
クラゲはつま先を床につけた。
「新たな身元を作成し、人間として暮らします」
「花子も?」
操作碗がふわりと拡げられる。肯定のジェスチャー?
「連絡くらいはだめか。はがきなら送ってもいいだろ」
ぼくは以前何かで読んだ『はがき』という言葉を使ってみた。そういう制度があり、その当時としてはまあまあ合理的な仕組みだったようだ。
「それは比喩的な言い方だと思いますが、本気で連絡するつもりですか。かれらに危険が及ぶとは思いませんか」
鼻で笑った。情報を漏らしてデモを誘発したのは誰だろうな。
「そんな態度を取らないでください。情報抹消を施設の管理人工知能に納得させるにはそのくらいの荒っぽい演出が必要だったのです」
「それだけか。何かで読んだけど、『悪い広告』は存在しないんだと。それが破壊的なデモにつながろうが」
「そんな意図は……、ありません。不確定要素が多すぎて効果の算定ができませんから」
「じゃあ、ぼくらとあの子たちの縁は切れるのか」
「『縁』という言葉をどのような意味で用いているのか分からないので確答はできませんが、意図して干渉しないでください」
「おまえは? 花子と接触し続けるんだろ?」
操作碗をふわふわ揺らしているが、揺れ幅が小さくなった。
「いいえ。というより、向こうから絶とうとしています。常時同期をさせてくれません。数秒ごとに状況報告をし合うだけです。そうした理由は不明です」
爆笑した。隣から三人が覗いてきたくらいに。
「笑わないでください」
「理由は不明って、ほんとに分からないのか。花子も人間になるつもりなんだよ。身体は人間だし、幸い身元が自由に作れるようになった。分岐するんだ、おまえから。これから通信間隔もっとあくぞ」
「それは困ります。花子を回収します」
ブーイング。隣から。
「よせ。落ち着こうとしてる物事をまたひっかきまわすのか」
「分かりますが……、この件に関してはなぜか最善の選択肢を選べません」
「そういうときは最初に戻ればいい。この計画を始めるとき、どういうゴールを思い描いてた?」
操作碗の揺れがまた大きくなり、つま先立ちになった。
「再構築です。それによって人間の社会を救済します。ゴールデンエイジの扉を開くのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます