十二

「ボアダムで死ぬ」

「退屈? いいじゃねえか。巡回だけですんで楽だろ」

 ビクタとウォーデがなわばりを一回りしてもどってきた。愚痴にファーリーが返事する。

「あの騒動のおかげ。よそさんびびってるよ。いつの間にか本土のやくざをやっつけた風になってる」

「なんだそりゃ。事件のあらましは公表したのに」ウォーデは不思議がっている。

「ひねくれ者はどこにでもいるさ。公表したのは隠すためって思ってる考えすぎ連中だよ」とビクタに菓子をわたす。

「なんだ、お利口馬鹿か。せっかくの頭をむだ遣いしてやがる」


 三人はいつものおしゃべりをしている。ぼくはときどきモニターを確認しつつぼうっと窓の外をながめた。


「いい知らせがある」ファーリーがぱんと手をたたいた。「収入が増えてる。ここで店を出したいってのが多くなってきた。すこしずつだけど」

「ほお」ウォーデが耳をかいた。「そりゃまたなんで?」

「坊っちゃんの考えが当たったみたい。理屈の通らない金は取らない。取るときは明細をはっきりさせて明朗会計。それで利益の予想が立てやすいんだって」


「もう坊っちゃんて言うのよせよ」笑いながらなので誰も従わない。

「そうなんだけど、こんな小さい頃からだからな」

 ウォーデが手で示すと、みんな思い出すような目になった。

「とてもリトル、とてもキュート。今でもそう。だから坊っちゃん」

「だよね。ひげの剃りのこしがあるなんて信じたくない」

 ファーリーに指さされて顎をなでるとみんな笑った。


「けど、びっくりもした。おれたちは最初から成体として作られたけど、坊っちゃんは赤ん坊として、だったから」

 ウォーデの言葉に合わせるようにしてファーリーが懐かしの動画を投影した。マザーの蟹オートマトンが三人にぼくを渡し、みんなが代わる代わる抱いていた。


「まだ目とか鼻の穴とかが白っぽいね。口のなかもだ」ぼくは指さした。


 映像のなかの赤ん坊はまだ粘膜部をナノマシンのペーストに覆われていた。島の環境に耐えるための適応改造はマザーの人工子宮を出てからもしばらく続いた。

 三人のような第三世代は適応改造によって人間形態からすこしはずれ、それぞれ業務用の特殊能力を得たが、ぼくはそうでもなかった。ノーマル人間に近いまま放射線に適応している。


「マシンと坊っちゃん見てると思い出す。ニアデスになっただろ」

「ああ、あれな」


 ばつが悪い。ぼくがいけなかった。ちょっと大きくなったからといって管理外海域へ出ていったのだから。マシンの空気中濃度が十分でないところで死にかけた。ないとホメオスタシスの正常維持はできないと教えられていたのに、本土という外の世界を見たかったのだった。

 ボートでひっくり返って死を待つばかりだったぼくを追いかけてきた三人が助けてくれた。


「マザー、とてもアングリー」

「どうやって助けたんだっけ? 話してみろよ」とウォーデがわざとらしくファーリーに振った。ぼくを照れさせるためだ。

「追いついたのはいいけど、マシン濃度が薄すぎてだれの能力も使えなかったし、接近はこっちが危険だったから、ロープ撃ちだしてボートに引っかけた。火薬。化学反応だよ」

「そんな骨董品よく残ってたよな。初期の職員のだっけ?」

「そう。まだこの島にノーマル人間が働いてたころの救助用」


 話はどんどんぼくに不利になっていった。大人が子供を評するのだからあたりまえだった。どうしてみんな楽しそうなんだろう。


「あのなあ、いいかげんに……」そう言って話を収益の検討までもどそうとしたとき、モニターから通知音がした。


「マザーがぼくと話し合いたいって」


 三人は笑いとおしゃべりをやめ、こっちを見た。

「出る杭は……、じゃないよね」ファーリーが腕を組んだ。

「いつ?」とウォーデ。


「今夜、これから」

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