十一

「ちょっといいか」女が口を開いた。「そいつはすこし興奮している。ここに来る前に何か摂取したらしいな。失礼は謝罪するので話をあまり真面目にとらないでほしい」

 少年は女のほうを見た。しゅんとしている。さすがに自分がやらかしたのに気づいたようだ。


「続けろ」


「わたしたちはこの島で社会学的調査を行っていた。特異な環境でどのような秩序が維持されているか確認したかった。そのために多少挑発的になったかもしれないが、重ねて謝罪する」

「多少?」

「悪意ではない。ちょっとした痛みはあるが探査針を刺すようなものだ。それと、あなたたちのような改造体にも遺伝子工学的興味があった。特にあなた、本土でも通用するくらいの人間形態だ」

 と、言う事は通用しないと言う事か。

「ほめていただいているようで。どうも」

「三代目? 四代目?」

「質問しているのはこっちだ。では、解放の条件として、調査データの無償・無条件提供を求める」


 女はすこし考えた。目を伏せると弱々しく見えた。「断わったら?」


「長期滞在してもらう。『適応』に充分なくらい」

「わかった、提供する」


 大量のデータが流れこんできた。ざっと見たかぎりではでたらめでもない感じだった。ファーリーに合図する。転がっている二人の足の拘束バンドがはずれた。


「今船を呼んだ。料金はそっち持ち。さあ、立て」

 外に出るとウォーデとビクタが戻っていた。二人は十メートルほど離れ、港まで前後をはさむようにさせた。空が明るくなってきた。


 船はオートマトン操縦だった。先行したウォーデが調べて大丈夫のサインを出した。


「腕の方は島の管理海域外に出たらはずれる」ビクタと乗りこむのを手伝ってやる。そうやって体をべたべた触りながら追跡機器を塗りつけた。


 オートマトン船が出港し、また波の音だけになった。港は朝を検知し、照明が消えていった。


「もうすぐ管理外に出る、あ、出た」

 ウォーデは監視機器と自分の感覚を総動員して追跡している。

「停船した。やつら海上で掃除はじめた。だめだ、素人じゃない。おっと、無効化された。また動き出した。進路変更した。東。こりゃチーバランドだな。でも絞り込めない。感なし。すまん。見失った」

「ご苦労さん。しょうがないよ」


 みんなでぞろぞろ戻る。ファーリーが首を振った。

「まずいね。敵を作っちまった」

「こっちから仕掛けたんじゃない」

「でも坊っちゃん、敵は敵。次はどんな攻撃してくるか」

 ウォーデが笑う。「そりゃファーリーの取り越し苦労さ。『真実のともしび』だってあの女みたいな考え方がほとんどだろう」

「でもさ、ごく少数の過激少年が飛びだすのを考えとかなきゃ」

「ファーリーはコレクト」ビクタは培養筋をふるわせる。


 ぼくは朝日で背を暖める。


「じゃ、自警団結成急がなきゃ」

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