十
目で合図しあい、ウォーデとビクタは出ていった。悪さをするのはこいつらだけじゃない。監視装置があるからといってなわばりに姿を見せないチームなどあり得ない。それこそつけこまれる。
結局、今夜の騒動はプラスに働きそうだった。本土のならず者を処理した。もう噂は島の隅々まで達しているだろう。
ぼくとファーリーはそこらから椅子をもってきて座った。やつらは転がしたまま目かくしだけはずし、ハンドサインをした。おとなしくしろ、よけいな真似はするな。二人ともうなずいたのでマスクの一部を開け、話せるようにした。
「では、説明を。ここで何をしていた?」
「ビジネス」少年が答えた。
おっと、うっかりしていた。耳をタップしてウォーデとビクタにも共有する。
「どんな種類の?」
「運送業、警備請負、いろいろ」
女は黙ったままだった。そういう役割分担らしい。
「ここを選んだ理由は?」
「四人しかいないうえに甘いって聞いた」
「甘かったか?」
答えない。ファーリーに合図したが、検索結果はまだ出ていなかった。それほど有名人じゃないのか。
「なぜいきなり攻撃した? 本土のビジネスはそうなのか」
「それは判断ミス。あんたが近寄ってきたのを勘違いした」
ちくちく信号が来た。ファーリーは嘘だと感じた。なら追加質問だ。
「ぼくらを運んできたコウノトリについて聞いてまわってたな。なぜだ」
少年は本気で分からない顔をした。こういう飾った言い回しは似合わなかったか。またファーリーにからかわれる。
「あー、出生について調べてたよな?」
「おまえら放射性物質漬けのシラミたかりが出てきた培養槽を知りたかった。唾を吐いてやろうと思ってな」
「そうか。なら本土で検索すればよかったのに」
「そんなもん信じられるか。真実を知りたいなら自分の目で見なきゃだめだ」
女の目が鋭くなった。明らかに少年はしゃべりすぎている。尋問されている時に相手とコミュニケーションを取るのは下の下。反応データをただでくれてやるようなものだ。質問には何も足さずに短く答える。それが鉄則なのに。
ファーリーから検索結果が来た。視野に直接投影される。今の『真実を知りたいなら自分の目で』という言葉と言い方がキーになった。
こいつらは『真実のともしび』のメンバーだった。やばい。ある意味危険な奴らだった。狂信者だ。
「放射性物質漬けのシラミたかり、か。なるほど当たってる。それで、おまえらもとっくにそうなったけど、感想は?」
属する組織がわかったなら、その教義にもとづいて感情を刺激する。ぼくは『真実のともしび』の情報を読みながら尋問を組み立てた。
「どうした? 早く本土に帰りたくないのか。早ければ早いほど体内洗浄の効き目もある。おまえらの言うシラミが遺伝子いじくる前に島を出たければ何もかも説明しろ」
少年の目つきが変わった。思ったよりもろかったな。
「反吐がでる。おまえらだよ。とくにおまえ。人間の形をした怪物め。いや、この環境に最適化された人造人間を調べるつもりだった。できれば標本を持ち帰るつもりだったけど。さあ、話したぞ。帰してくれ!」
倉庫に少年の声が反響した。
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