「どう、調子は?」

「はあ、まあまあです」

 野菜を手にしながら店主に話しかけた。目と手がヘルプを求めている。


「おや、新顔ですね。どちらから? この暑いのに全身防護服? ファンがあってもきついでしょ」

 話しかけながら近づく。ファーリーとビクタは適度に散った。話の途中で隣の店の角から防護服がもう一人出てきたが、さらにその後ろにウォーデがいたので気にしない事にした。

「なんだ、おまえ」加工声だった。

「ご冗談を。この港でわたしをご存じない?」手振りで店主を下がらせる。店主はほかの客を連れて引っこんだ。

「なんでもいい。口出すな。てめえの仕事だけしてろ」


 おかしい。最初からケンカを売ろうとしている。この島のチームも本土のやくざもそんなバカはしない。


「これが日常業務でして」さっき記録した『店主へのご提案』を再生する。「わたしはこのあたりの皆さまより治安維持を委託されております。このような『ご提案』はわたしが承りますが?」


 眼前で火花が散った。防護服野郎の手刀がフィールドではじかれ、そいつは衝撃で二、三歩下がった。打撃は目にもとまらぬ早さだったが、ファーリーも予想していた分フィールド展開は完璧なタイミングだった。


 さらにそいつにショックガンが二発命中した。ファーリーとビクタだった。だが、手刀にまとわせていたフィールドは服にも張ってあったらしく、派手な火花以上のダメージは与えられなかった。


 その火花が地面に散ってしまうより早く、ぼくは突き飛ばされて大根とキャベツにまみれていた。フィールドを自在にオンオフし、オフ時に力のみの攻撃をする。これで攻撃者はさっきみたいにはじかれない。理屈はわかってもこの速さでは対処はむずかしい。ショックガンを取りだす前に奴は包丁を手にした。

 二人は? まだちょっと遠い。ウォーデはさっきの奴とだろう。非常にまずい。

 転がりながら手にふれる野菜や品物を投げまくり、安定した攻撃姿勢を取らせないようにする。時間をかせぐのがもっともましな手だ。漬物の匂いがする。


「殺すな!」駆け寄る二人に怒鳴る。刃物を持ってるとはいえ最悪は避けたい。命を奪うとその後の選択肢をつぶしてしまう。


 ハードモードのビクタが漬物の汁まみれの防護服野郎に迫った。そいつは振り返る動作で切りつけたが、シャツを切ったのみだった。

 ビクタはうなった。ぼくはようやくショックガンをかまえたが、転がりながら殴りあう二人には撃てなかった。ファーリーも機会をうかがっている。


 ウォーデともう一人の防護服野郎は見当たらなかったが、音からして裏で戦っているようだった。くぐもった破裂音がした。何やってるんだ?


 こっちの勝負はついた。ビクタが羽交い絞めで動きを止め、ファーリーが正面から防護服を切り裂いた。中身はノーマル人間の女だった。手足を拘束バンドで固定し、目かくしをして口にマスクをはめ、装備を取り上げて転がした。ちょっとだけ息を止めようとしていたがすぐあきらめた。


「ウォーデは?」ビクタが見まわす。

「裏」と教えた時だった。「こっちも終わった」ウォーデが裏から人間を引きずって出てきた。おなじように拘束済みだった。手と爪を見たが、さっき怒鳴ったのは聞こえていたようだった。


 店主とその場にいた者たちに後始末と損害額を出しておくよう指示した。不届き者たちはかついで倉庫へ運んだ。うなっているが無視する。


「二人とも本土のノーマル人間だな。女と男」

 うす暗い倉庫の床に転がされた二人は顔をこっちに向け、まだうなっている。ウォーデがにやっとして言う。

「女と、少年」

 ファーリーは装備品からの吸電を終えていた。「こいつ、ひげそった事もないよ。たぶん。がたいはでかいけど」


「それで、どうする? トーチャーするの?」ビクタは本気か冗談かわからない口調だった。ぼくは苦笑いした。


「紳士的にお伺いするんだよ」

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