十
枕投げはぼくらだけじゃなかった。中国と台湾のにらみ合いが、なぜかスペインでの戦術核の爆発となって現れた。
「じゃ、本土の弱気はこれを予想してたんだ」ファーリーが帯電させたプラスチック棒で飛び散った羽毛を集め、ぼくらは枕とクッションの残骸を縫い合わせた。「原発と喧嘩なんかしてる場合じゃなかったのか」
NATOのオートマトン部隊はまだ国境を超えていないが時間の問題だろう。それより注目されているのがエナジーアイランド産の放射性物質回収ナノマシンと回収オートマトンだった。
「システム丸ごと売るなんてマザーはクレバー」
「なんせ長期の実績があるのはうちのだけだからな」牙がちらちらのぞく。
翌日の報道では放射性物質の減少の様子を示すグラフを映していた。散布されてから十時間でもとの自然のレベルにもどり、マシンは消滅し、回収オートマトンは適切に処理された。
政府寄りの解説者は、ここで実証されたように、もはや核兵器は威力の強大な爆弾にすぎず、使用後の放射性物質による影響はほぼ無視できるので非人道性が薄らいだと無理のある説明をしていた。
マザーは核兵器使用を二段式とする事を提案していた。最初に核兵器、つぎにナノマシンとオートマトンを撃ち込めばいい。そして、さっそくスペインでの対応を宣伝素材として使っていた。
さらにもうひとつ、人造人間のライセンスも売り始めた。人間と同等に単純労働から知的な労働まですべてに対応可能で制御も楽。人口が減っても労働力は減りませんと広告している。
「今はみんな様子うかがってるけど、だれかが買って使ったら歯止めがきかなくなる」
「いや、坊っちゃん、もう買われてる」ウォーデが画面をたたき、隅の記事が拡大された。
そこにはロシアが港湾を作るために核兵器とマシンに人造人間を組み合わせて使用する計画を発表し、環境保護団体から強い抗議を受けているとあり、また、オーストラリアが内陸の砂漠開拓用に人造人間を使う計画を発表したともあった。
「売るのは第二世代改造型か。放射線耐性がない代わりにマシンは不要だって」資料映像では白磁の肌が列を作っていた。
「そりゃノーマル人間とは見た目違ってたほうが受け入れやすいだろうな」
「けど、うまく行きすぎだし、物事はやく進みすぎ」ファーリーが取り残した羽毛をつまんで吹いた。
「だれかがバックにいる?」
「だれか、だったらまだいいんだけどね」
「だよな。もう人間の頭じゃ社会同士の絡みを想像できなくなった。なんせ中国が台湾を突っついたらスペインで核爆発するんだもんな」耳がぴくぴく動いた。
「でも、日本のガバメントはその事態を予想してエナジーアイランドとのトラブルを早々にクリアしたよ」
「政府に助言したのは人工知能だろ」耳が止まって牙が見えた。わかりやすくいら立っている。またなだめなきゃ。
「まあまあ、とりあえずぼくらでも想像できる範囲で仕事しよう。地球全体を眺めるのはどんな奴だって無理なんだから、島だけ見てよう」
報道を追いやって、今夜の警備計画に切り替えた。『カクブンレツ』としてのなわばりの見回りと、エナジーアイランド自警団としての巡回をこなさなくちゃならない。
「ぼくとウォーデが見回りやって後から加わるから、ファーリーとビクタは西周りのコースで巡回お願い」
三人は画面を確認してうなずく。アルゴスは緑だった。どのオートマトンも地表高度だった。
子画面ではNATOオートマトン部隊が国境を越えていた。
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