丘を登りきってしまうと届け先が見下ろせた。建物の集合体は大小さまざまな箱が群れを成しているように見える。灯火は今夜も必要最低限。この島の上空を飛ぼうなどという奴はいない。


「もういいだろ」とウォーデ。たしかにそうだった。ぼくは手を上げて警戒態勢を解いた。

「もどしていいよ」と声をかけると、ビクタがハードモードを解除した。「ハングリー」とぼやいている。皮膚装甲化はエネルギー消費が大きい。

 エネルギーという言葉から連想したのでファーリーの胸をちらりと見た。上着をはだけて暑そうにぱたぱたやっている。生体バッテリーは小さくなっていた。「ショックガンのせいで思ったより使ったみたい。坊っちゃんの分もフィールド張ったから」


 ふん、と返事もせず箱の群れに目をもどした。自分たちを含め、この島の様々なものが生まれた工場兼研究所が並ぶ。


 そして、さらにその向こうのもっと巨大な建物群を眺めた。エネルギーの話をするなら、あそこがそのメガ生産地だ。


「行こう。仕事すましちまおう。それとも朝まで原子炉ウォッチングかい?」

 ウォーデが急かし、ぼくらは移動を再開した。


 接触は向こうからだった。丘を下ったあたりで、虫のような細い二本脚に人の頭ほどの気球をつけた半浮遊式オートマトンがふらふらとした脚取りで近づいてきた。センサー・発声部がちょうどぼくの顔くらいの高さにあった。


「停止せよ。手を見えるようにひろげよ。ご用をおうかがいします」命令口調と丁寧な話し方がまじっていた。変な学習をしたのだろう。とにかく言うとおり手をひろげて上げた。みんなもそうした。

「お届けものです」視線操作で伝票データを胸に投影すると、ふらふらオートマトンがセンサーをかたむけて読み取った。

「ごくろうさまです。受け取り場所へはこう行ってください」ゴーグルに地図データが流れこんできた。「なお、指定した道を外れた場合無警告での攻撃が行われる。その結果についてインフィニティ・マザーは責任を負わない。理解したら声に出して答えよ」

「わかりました。道は外れません」

「地図どおりに歩く。はいはい」

「ああ、理解した。道だけ歩くよ」

「オーケー。まっすぐ」

 ふらふらオートマトンはビクタのほうを向いた。「厳密にはまっすぐではありませんが、理解したものと解釈する。では通ってよろしい」そしてふらふらと去った。


 いたるところから狙われているような居心地悪さを感じながらぼくらは進んだ。ほぼまっすぐな道だったし、雲はずっと薄かったので先が良く見えた。


 指定された建物につくと、壁にはりついていた蟹オートマトンが荷を受け取りに来た。見た目より強力で標準コンテナを片手で持ち上げて背にのせた。伝票に受け取りの署名が書きこまれたと通知が来たので、送り主に配送完了を送信した。

「たしかに受け取りました。では失礼します」

 蟹オートマトンはそのままバックで引っ込もうとしたが、急に停止した。


「あなたがた、チーム『カクブンレツ』の代表者は前へ。インフィニティ・マザーからです」

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