二
「けど」とファーリーが腕を組む。「自警団になりたい奴なんてこの島にはいないよ。坊っちゃん、言いたかないけど……」
「なら、言わないで」
ファーリーは口を閉じ、またすこし開きかけてやめた。舌がちらっとのぞく。ウォーデはオオカミ耳をぴくっと動かし、ビクタはぶるっと培養筋を震わせた。
「ごめん。でも自警活動の成果は上がってるんだ。外の連中、たとえば江東とかチーバランドの奴らとか、荷下ろしや運搬にはここの港を指定したがるようになってきた。ぼくらは荷抜きしないし、受け渡し率も高いし」
「超過勤務だけどね」ウォーデがヘッドフォンをはずした。「おれらが荷下ろしから運搬やら警備まですべてを担当しつづけるってのはそろそろ無理が来てる。分かってんだろ?」
「うん、そこは読みまちがえた。ちゃんと仕事すれば利益も上がるって実際に見せればみんなついてくるって思ってた」
「でも、だれも手を上げない」ファーリーは組んだ腕にさらに力をこめる。胸部生体バッテリーがぐっとゆがむ。今日はかなりのエネルギーが蓄えられていた。
画面の点々一つ一つがよそのチームが起こしたか、そう思われる事件を表していた。盗み、けんか、いやがらせ、上納の強制。対処はしているが、後追いになってばかりだった。なわばりを宣言しておきながらこれはまずい。弱気と取られたらつけこまれる。それがこの島だ。
でもそれを考えるのは置いておこう。今は目の前のやる事をやる。
ぼくはまだ何か言いたげなファーリーを手で制し、画面を切り替えた。今夜の仕事。江東区のアイランド・オブ・ドリームから精密機械部品が届く。標準の小型コンテナ1台。届け先はインフィニティ・マザー。
「わかるだろ? こんな大きな依頼がくるようになったのもみんなががんばってくれたおかげ。マザーへの届けものなんてあつかえるチームはそうはない」
「しかも指名だし」ファーリーはよだれをたらしそうだった。
「儲けはでかい」ウォーデはもう鼻に嗅覚強化クリームを塗っている。
「リスクも、ビッグ」ビクタは知らぬ間に菓子袋を開けていた。ぱくぱく。
「運搬経路は最短でいく。道は使わない。大回りになりすぎる。今回はすばやくやったほうが安全だと思う」
「いいねえ。スピード優先。気にいった。さすが坊っちゃん」
「やめろって。だから脚付きパレットを使う。操作とエネルギーは頼む」
ファーリーは髪から指先に放電してみせた。
「フォーメーションはこう」
「おい、おれが先頭じゃないのか」
「今回はビクタが露払い。ウォーデはチームを見わたせるところにいてほしい」
「見張り役かよ。おれは台所仕事もできるんだけどな」手をひらいて爪を見せた。
「はなっからハードモード?」ビクタは菓子を両手に持っていた。
「そう。その通り。遷移時間はないと思う。菓子おごるよ。いつものでいい?」
「オッケー。ナイス」
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