一週間して、警察は島への再配置の交渉を開始した。マザーはかなり強い調子で断った。オートマトンが港や海岸沿いに集められた。

 マザーはメディアの取材を受け、今回の突然の引き揚げによる被害を訴えた。

 さらに、国および東京都に対し、マザーが組織するエナジーアイランド自警団を公的なものとして認めよと要求した。

 一方で電力供給については終始あいまいな態度だったので、首都圏の住民に不安が拡がった。


「マザー、クイーンになるつもりだ」

「うん。今となっちゃ悪くない」


 その夜はぼくとビクタが組だった。


「坊っちゃん、アルゴスはまだシークレット?」

「迷ってる」

 それについては一度みんなと話をした。マザーにアルゴスのプログラムを提供して『制服』連中の強制再上陸に備えよう、と思ったが、ぼくの心に何かが引っかかっていた。せっかく完全に閉じた仕組みを作ったのにもうやめにしてしまうのか。

「でも、提供するんなら早くしないと、アジャストの時間もとらなきゃ」

「わかってる。上陸されてからじゃ一手遅れる」


 空を見上げると、ゴーグルの支援機能が勝手に働き、見えている星を基準に星座の線が引かれた。『W』や『ひしゃく』が浮かぶ。人工衛星は機能に応じて形のちがう点で表された。


「なあ、前に『Quis custodiet ipsos custodes?』って言ったよな?」

「坊っちゃん、まさか」

「そう。マザーも見張らなきゃいけないんじゃないかって考えてる」


 信じられないという目をしている。


「なぜ、島の住民はデモを起こさなかったんだと思う?」

 ビクタは首を振った。

「じゃ、質問を変えよう。おまえはなぜ怒らなかった?」

「胚を取ったのはアンコンフォタブルだけど、怒るほどじゃない。改造はここじゃノーマル。そもそも取られた女がプロテストしてない」

「『すっぱい葡萄』みたいだな。本音か? ほんとは怖いんじゃないか。支配者たるマザーに抗議なんか無駄って」

「ディスアグリーアブル」右手を拳にして左手に打ちつけた。パシッ! 「でも、そうかも知れない。たしかにマザーはルーラー」

「フェアでマーシレス」まねをするとにやっと笑った。「公平無私な部分についてはよしとしても、無慈悲な部分は監視がいると思う。どう?」


「それはクラシファイできる?」


 パシッ!

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