笑った。風が潮の匂いを運んでくる。「なれればいいね。一千万キロワットのキング。エナジーアイランドの統治者。悪くない」


「なんでそう思った?」ウォーデが耳をかきながらビクタに聞いた。パレットは心地よくゆれている。

「坊っちゃんはヴィジランテ結成って言うけど、本土のポリスとコミュニケーションとらないし、きのうのマザーとの話でも変に意地になってた」

「変?」ファーリーまでのってきた。

「マザーがイニシアチブとるの嫌がってた」


 二人ともふきだした。ぼくはぽかんとしていた。そんなふうに見えたのだろうか。


 なわばりにもどると、予約していた職人にパレットを預けた。一輪車はビクタがばらす。パーツについては売るのも取っておくのも判断をまかせた。

「ちゃんと休んどいて。今夜も巡回やるから」


 みんなと別れて部屋にもどる。最新の報告に目を通す。よそのチームの侵入がまたあった。物を盗り、いやがらせをし、金品を上納させようとする。きびしく対処しないと。

 それらとはべつに妙な報告があった。われわれ四人、とくにぼくについて聞いてまわっている連中がいるとの事だった。島の住人じゃなさそうだ。ぼくらのなわばりは港と周辺の町だから、本土からだれかが来ているのは珍しくはないのだが、ちょっと空気のちがう奴らだった。

 質問の内容は主に出生についてだった。そんなもの公開されていてなんの秘密にもしていない。本土で座ったままネットで検索すればニュース記事や論文がいくらでも引っかかってくるはずだった。


「ふうん、そりゃ妙だね。ここに人造人間がいるのは秘密じゃないし」

 日が傾きかけたころ、ファーリーが一番に顔を出した。報告についてざっと見てもらって意見を聞いた。「それに、坊っちゃんの出生はちょっと変わってるけど、隠してなんかない。聞いてまわる事じゃないね」


 ウォーデとビクタはちょっと遅れた。ファーリーの肩越しに報告をのぞく。

「変だな。見かけたらとっ捕まえて吐かせるか」

「本土の人にいきなりバイオレンスはだめ」


「よし。でかけようか。不届き者は一掃する」


 夜にはやるのは港周辺だった。今日来たものがさっそく売られている。今夜は生鮮食品が多い。野菜を商っている一角はあざやかな色が照明に浮かんでいた。


 そして不審者も浮いている。何と言っていいのかだが、もめ事を起こす輩はどことなく異なった空気をまとっている。そしてそれは嗅ぎ分けられる。ウォーデにまわりこんで背後につくよう指示した。


 そいつは商品を選ぶふりをしながら店主に話しかけていた。とまどったような店主の表情をみればわかる。何か無理難題を押し付けている。

「……こういう新鮮さが売りの商品について、よどみなく輸送できるようにご協力差し上げたいというご提案でして……」耳の感度を高めるとそんな声が聞こえてきた。


「話し方が変だね」とファーリーが言う。「本土っぽい。全身防護服なのは身元を隠したいからだけじゃなさそう」

「ヤクゥザ?」ビクタが変な発音をした。

「なんでもいい。行くぞ」


 ぼくは合図をした。

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