十二
二十日たたないうちに七人全員見かけた。いちいち声はかけなかった。同型だが色や模様が異なっていた。しがみついている場所も違う。トリグモ同士が通信しあっているかまでは不明だった。聞いても答えなかった。
みんな無関心というのはその通りだった。職場でもどこでもじろじろ見られたり聞かれたりしなかった。さっと目を走らせ、そうか、という感じでそらす。
リアクションを複製したのだと説明されても何をしているのかさっぱりだった。寝ていようが風呂だろうがトイレだろうがくっついてるかそばにいる。
便利な端末のように使ってやろうかと思ったがそっち方面にはまったく役に立たなかった。何を聞いても無反応だった。
「よろしいですか」
でも、自分の都合で話しかけてくる。
「さきほど、トマトを購入しただけなのにアドレナリンが検出されました。何に対してストレスを感じたのですか」
「知るか。おまえと違っていちいちどういうホルモン出したかなんか分かんねえよ」
「何かに警戒されたのですか」
「だから知らないって。そこらから見られてる気がしたんだよ」
「なるほど。周囲への本能的警戒。なるほど」
「てめぇは完璧な複製じゃないんだな」
「そのとおりです。あなたと同じように周囲を知覚していない以上、リアクションは異なります。想定されていました」
「こんなの、いつまで?」
「マザーが満足するまでです」
トリグモを背負って一か月たつかたたないかの頃、坊っちゃんと呼ばれている男と、あの三人組を見かけたが、やはり反応は薄かった。もう関心はないのか、そうよそおっているだけなのか。
かれら『カクブンレツ』とエナジーアイランド自警団はよくやっている。台所仕事はもうはやらなくなった。今では荷がそのままの形と数量で届く率は八割を超えており、それと共に島の雰囲気が落ち着いてきた。
『真実のともしび』は制限団体に指定された。抗議は無視され、再審査請求は却下された。これで公の場での活動は事実上不可能になる。
あゆみはそういう報道を見ながらきゅうりをかじった。
「よろしいですか。マザーとしてお話したいのですが」
そろそろ寝ようと横になった時だった。
「何? 短くな」
「感覚器官に相乗りさせてください」
「断る。おやすみ」
「こっちのも使えますよ」
「いらない」
「でも、トリグモの観察ではあなたはいつも警戒しています。無意識でも。ならわたしとおなじ島中のセンサーが使えるというのは良い取引ではないでしょうか」
あゆみは起き直った。
「島中?」
「ただし居住区にあるものだけです。原子炉や研究・工場棟のは非公開です」
「全部か」
「全部です。トリグモが中継します。もちろんあなたは人間ですからすべてを同時、並行での処理はできないでしょう。それでも悪くはないはずです」
「なんでそこまで提供する?」
「人間の無意識的な知覚と反応を知りたい。それもシミュレートして複製したいのです」
頭をかいた。「なんのつもり?」
「わたしは、母になりたい」
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