四
あの二人とは別れた。あゆみの生活は変わらなかった。すでに食用微生物培養槽での仕事を持っていた点を考慮され、奉仕はその業務を当ててよい事になった。
管理者は喜んだ。合法的に三か月ただ働きしてくれるのだから。
本土とちがい、追跡バンドやアンクレットははめられなかった。たしかにこの島では不要だ。そのかわり端末を渡され、一日一時間の学習が命じられた。
ここの来歴。人工島はどうやってできたのか。原子力発電所が関東地方や日本に果たしている役割について。その維持を行うわれわれ島民の重要性と義務はいかなるものか。
そして、島民とインフィニティ・マザーの関係はどうあるべきか。といった内容だった。
一方で、マザーに作られた人造人間と、本土からはみだしてやってきたノーマル人間についてはテキスト上ではまったく区別されていなかった。そういう人々がいると淡々と述べるだけだった。あの三人組と、坊っちゃんと呼ばれていた若い男について手がかりでもあるかと思ったが特になかった。
たぶんあいつら三人は人造人間の第三世代だろう。能力まで見たのはあの時が初めてだった。
でもあの若いのはなんだ? 『カクブンレツ』のリーダーは変わってると聞いていたが、ああいう変わりかたとは思わなかった。ほとんどノーマル人間なのに、人の心をぜんぶ見透かしているようだった。情報収集に特化した能力なのだろうか。
それに『坊っちゃん』とはどういう事だろう。
あゆみは端末で検索しようとしたが、学習内容からはずれると制限がかかった。
自由のようで、自由でない。決済機能は止められているので出歩いても何もできない。仕事以外はずっと閉じこもっている。
労働奉仕期間の初めの一か月が過ぎると面談があった。端末を使ってマザーの質問に答えた。学習の再確認で、まじめにやっているかの確認だった。三十分ほどで終わった。
「おつかれさま。以上で面談は終了です。あと二回あります」と、予定日が表示された。
「ところで、よろしければもうすこしお話はいかがですか」
ほらきた。ほんとは終わっちゃいない。これからが本番なのだ。よくあるテクニックだった。あゆみは本土で経験していた。これは断ってはいけない。
「もちろん。次のシフトまでまだありますし」
「ありがとう。手短にすませます。この労働奉仕が終わった後の身の振り方について考えていますか」
「あー、はい。できればこの仕事を続けたいのですが。慣れましたし、住みこみなのも気にいっています」
安定を志向しているように見せかける。質問者を安心させる回答だ。
「そうですか。それはいい。ただ、毎日の暮らしにちょっとした変化を加えてみるのはいかがでしょう?」
は? あゆみは即座に答えられなかった。これは違う。通常の面談や尋問ではない。なんだ?
「あの、ちょっと話が見えませんが。『変化』とはなんでしょう?」
「わたしのセンサーになっていただけませんか」
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