第22話 一代男爵になりたい父アウダークス⑦

「ざっと見たところ2億アウルムほどお持ちいただいたようですね。市の財政として大いに助かることは確かです、それは確かですよ。間違いありません。父アウダークスさん。ただし、それは子供が道で小銭を拾って市に寄付する…それは一アウルムであってもそうなのです」


「なんだと? 俺の二億アウルムと子供の一アウルムが同じだと言うのか?」


「はい。市の財政に寄与するという点では」


 代官アスカールに目をむく父アウダークスを見ながら、代官アスカールは心の中だけで「もちろん寄与度と影響力と言う点では段違いですが」と続けるが口には出さない。


「ですから。

 ですからね、父アウダークスさん。市としても『2億アウルムを貰ったから、明日からこの人を『一代男爵』に任ずるわ』といかないのは、先ほどもお話しした通りなのです。

 『昨日今日イッタに来た人間でも大金を積めば、その人間性や実績、過去の経歴も関係なく一代男爵になれる』 そんな話が出てきては困ると言うことです。それではイッタの町が悪党の巣窟になってしまいますよ」


 代官アスカールは父アウダークスが理解しているか伺うようにその眼の奥を見つめて肩をすくめる。


「そして、これはこちら側の都合なんですがね。市庁舎なんてところは民間と違いまして。そこは、ほら。多くの人間が集まりますから、みんな責任は取りたくない。だから前例のないことには賛成したくない。そうやって反対する者がたくさんいるわけです

  確かに2億アウルムあれば、そう言った反対派を懐柔することはできるでしょうな。しかし懐柔に2億アウルム使ったら市への寄付金はゼロになる。そういうことなのですよ」


「なんだよ、だから金のおかわりってことか?」


「私どもはそうは申しておりません。

 先ほどもお話ししました通り私どもは最初から『テクトゥム=ルブラム家の当主となったあなたが、このような形で『一代男爵』を求める必要がない』と言っているのです。

 それでもすぐに『一代男爵』という爵位を欲するなら……父アウダークスさん。わかりますか? あなたがどうにかして自分がこの金で『一代男爵』を買うことに反対する人物を見つけて懐柔し、賛成……少なくとも反対しない立場を取らせればよいだけです。ただ私どもは公務に忙しく、そんなことにかかずらう時間がありませんので」

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