第21話 一代男爵になりたい父アウダークス⑥
「俺にどうしろと?」
今朝の騒動を見てきたかのように言う代官アスカールは、腰を浮かした父アウダークスに手を拡げて落ち着くように諭し、もう一度座って話し合おうと言う。父アウダークスには、代官アスカールは「こいつは人を見る目があるのだ、観察観があるのだ。だから代官としてここにいるのだ」と感じた。
しかし事実は少し違う。掛屋ウィリディスの密偵がテクトゥム=ルブラム家の今朝の騒動の詳細を主人に報告し、掛屋ウィリディスは代官アスカールにすぐに報告していたのである。
掛屋ウィリディスはすでに父アウダークスが堪え性のないこと、短気なこと、すぐ激昂すること、暴力的なことなど父アウダークスの性格を見透かしていた。そして「父アウダークスが家令のティモンをギャフンと言わせるために一代男爵をクレと言いに来るだろう」と。
「諸々がおかしいのですよ。父アウダークスさん」
「なにがだ? 一代男爵ならこれくらい寄付すれば十分だろう?」
「たしかにイッタ市民であり、市の運営への功績がある者は金さえ不要で取得可能です」
「ならなぜっ!」
「おちつきなさい。さっきも言ったでしょう。
キャンキャン吠えなさんな。野良犬でもあるまいし」
「ちっ」
代官アスカールが宥めるが、正論を述べる代官アスカールにいら立ちがつのり、貧乏ゆすりが激しくなる父アウダークス。
「あなたはイッタ市民になったばかりだ。市になんの功績もない」
「だったらなんだ! だから! だから俺はこの金を・・・」
「まちなさい。規則と慣例を曲げようとしているのはどちらですか?」
「・・・俺だ」
「結構。底までは分かってらっしゃるようだ。
そのあなたが妥当な寄付金を積んだからと言って、すぐに一代男爵に任じられるとお思いで?」
「まだ金を毟ろうというのか?」
「いえ。先ほども言いました通り、父アウダークスさんは5年ほどテクトゥム=ルブラム家の当主に収まってジッとしていれば、いずれ市の方から『一代男爵になってください』と声がかかるはずなのですよ、と言っているのです。それほどこの街でテクトゥム=ルブラム家の名前と言うのは重いのです。そもそもお金など必要のないことです」
「だったら……」
「それでもとおっしゃり規則を曲げるなら、誰もが納得する実績を示さねばならないのです」
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