第5話 父アウダークス=ルブラム②

 こうやって父アウダークスが母トレランティアのもとへ通うことが2年ほど続いた後、エクウス家の大奥様はまとまらない見合いにしびれを切らした。このときエクウス家の大奥様はクーメ・シルワ家に「見合いがまとまらなければエクウス家剣術指南役を解任する」という圧力をかけている。


 この剣術指南役解任の騒動でクーメ・シルワ家は本家であるクースー・シルワ家に泣きを入れ、とうとうシルワ家は「テクトゥム=ルブラム家は、長女トレランティアとピスカートル家アウダークスとの婚姻を受け入れるように」という通達を寄越すことになる。そこでついに母トレランティアは父アウダークスと結婚し王都へ行くこととなった。


 祖母セーリクスをはじめとして、テクトゥム=ルブラム家の面々は危機感を抱いていた。王都で高等教育を受けたとはいえ漁師の末子であり、高等教育終了後も大店で働いているわけではなく、現在の職業は一薬師付きの行商人である。


 贔屓目に見ても商才があるとは思えないばかりか、母トレランティアの下に通うためとはいえ、女のために借金までする。その金遣いからは少なくとも商人としての才覚は疑わしく、ただただテクトゥム=ルブラム家の財産を狙ってタカろうとしているとしか思われなかったのである。


 そのようなケースは多々あるため、婚姻するものの馬脚を現したところで離縁するというのは商家の常であった。また、姉トレランティアが出戻りとなっても、妹ミーティスがいるためこの時点ではテクトゥム=ルブラム家はそれほど慌ててはいなかった。


 高齢であるエクウス家の大奥様が倒れさえすれば、この身分違いの婚姻を積極的にすすめる者は父アウダークス以外いなかったからである。テクトゥム=ルブラム家には未だ当主である曽祖父クレクトが健在で、入り婿である義祖父ピウスも側近として辣腕をふるっていたため、テクトゥム=ルブラム家の商売は小さいながらも順調であった。そのため成立した婚姻であった。


 しかも父アウダークスは、すでにこの時点で「女のために分不相応の借金をする男」という評価であったため商家の当主となることはありえなかったし、曽祖父、義祖父も健在であり父アウダークスがテクトゥム=ルブラム家に入り婿する可能性もゼロであったのだ。このときこの婚姻がテクトゥム=ルブラム家を含め、周囲の縁者に破滅の風を撒き散らす端緒になるとは誰も思いはしなかったのである。

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