第4話 父アウダークス=ルブラム①
わが父アウダークスはイッタの北百キロメートルほどにあるフォレースの街の網元であるピスカートル家の七男三女の末子であった。父アウダークスがテクトゥム=ルブラム家の一員となったのは、わが母テレランティアと婚姻したからである。
テクトゥム=ルブラム家の祖とされるクースーのシルワ家から西のクーメ領エクウス家の剣術指南に着任していたシルワ家分家であるクーメ・シルワ家が、仲人することに執心していたエクウス家の大奥様から見合いの強い要請があったのがこの縁の端緒である。
しかし、テクトゥム=ルブラム家は商家とはいえ数百年もの間、一代男爵を連綿と叙爵しており実質襲爵の状態であった。このため近隣の他の小貴族からも小貴族として扱われており、我が母テレランティアと漁師の末子では身分のつり合いが取れていなかった。
また母トレランティアは非常に聡明で容姿端麗であったので、クースー・シルワ家や交流のある貴族からの縁談もあった。テクトゥム=ルブラム家はその縁談の中で商家としての権勢を取り戻すべく、母テレランティアの婿候補は他の大店の次男、三男を中心に入り婿の形で数人にまで候補に絞られていた。
そのため見合い自体に反対であったし、本家でもあるクースー・シルワ家も商人でない父アウダークスの商才を疑問視していた。
テクトゥム=ルブラム家の商家としての力が殺がれて今以上に衰退することは、ひいては本家であるクースー・シルワ家の権勢も衰えることにつながるため、商人として実績も才能も縁故もない父アウダークスとの婚姻は、クースー・シルワ家も反対であった。
そのためクーメ・シルワ家の立場を考えてテクトゥム=ルブラム家はこの見合いは受け入れざるを得ないが、義理を立て見合いをした後に断る予定となっていた。事実、母テレランティアは見合い後、すぐに断りの連絡をしている。
しかし、当時王都で薬師付きの行商人をしていた父アウダークスはその断りの返事を認めず2年にわたり母トレランティアの下に月に2回ほど通うこととなった。世間一般的に標準的な給料しか受け取っていない父アウダークスの給料では生活をするのがやっとであって、月給の半月分ほどの王都からイッタまでの交通費を捻出することは難しいものであった。
しかし父アウダークスは、エクウス家お抱えの掛屋にエクウス家の大奥様を保証人として多額の借金をし、母トレランティアのもとに通ったのである。しかも来る度に仲人として引き合わせたクーメ領エクウス家の大奥様経由で連絡を取るため、テクトゥム=ルブラム家と母テレランティアは、父アウダークスとの面会を断ることができなかった。
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