第3話 商家テクトゥム=ルブラム②

 その商家テクトゥム=ルブラム家の事業は没落する小貴族や豪農から荒野を買っては開墾し耕作地を拡げ農産物の増産に励み、山を買っては果樹を植え果実を売り、針葉樹を植林し木材を売ったそうである。


 農家の3男坊4男坊など家を放逐され食うに困ったものがいれば、それを雇って荒野を開墾し、開墾した土地を貸し与えて小作農とした。商家を放逐された若者がいれば、それを雇って産出した生産物を西に40キロほど離れた他領の領都であるクーメの街に持ち込んで売り、クーメの特産である織物や工芸品をイッタやクースーの街に持ち帰る商売をしていた。資金ができれば、また山野を買い、次第に規模を拡大していったという記録がある。


 約七十五年前に王制が崩れる直前の最盛期には、イッタの街の東半分と隣町クースーの間に広大な土地(ほとんどは山林であるが)を所有しており、イッタの街の者たちからは「テクトゥム=ルブラム家の者は、他人の土地を踏まずにクースーに行ける」とまで言われたものであった。


 このように広大な土地と小作農を保有した商家テクトゥム=ルブラム家は、クースー・シルワ家の御用商人的な立場と言うこともあり、非常に稀なケースではあるが準貴族のような待遇を受けていたという。


 それを揶揄して商家テクトゥム=ルブラム家をよく思わない者からは、テクトゥム=ルブラム家には平民の赤い血、貴族の青い血、その混じりあった紫の血が流れていると『プルプラ(紫)』と陰で呼ばれることもあったそうだ。


 しかし、王国は七十五年前の王政崩壊、三十五年前の大帝国との手痛い敗戦を経験して、諸国から政治・経済・軍事・社会システムといったあらゆる分野で介入を受けて荒廃した。それに伴い当時はイッタの街で知らぬ者はいないテクトゥム=ルブラム家も今では知る人ぞ知る、小さな商家へと落ちぶれていった。


 特に田舎の貴族、商家、富豪農などテクトゥム=ルブラム家のような大地主は、三十五年前の戦後処理で所有する土地と小作農のほとんどを奪われ力を失った。一方で王都周辺の貴族や大地主は様々な取引で土地と財の喪失を防いでいたのであるが、そういった土地や財の喪失を防ぐ対策や情報がイッタの街に伝わるのは、すべてが終わった後であった。

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