第2話 商家テクトゥム=ルブラム①

 私が生まれた商家テクトゥム=ルブラムは後背に南に廃坑となった金山と北に神山を要す旧王家直轄地であり、南北四キロメートル、東西は八キロメートルほどのイッタ盆地にある。


 イッタ盆地というのは、はるか昔に噴火した火山の噴火口跡だとも、古の星の落下跡だともいわれている。要は、なにがしかの理由でできた広大な窪地である。いにしえには水が湛えられた大きな湖であったそうだ。


 千数百年前に盆地の一角…西の山の一部が崩れ、盆地を満たしていた水が抜けて旧時代の街ができ、打ち捨てられていたそうだ。その後、数百年前に整備された大きな街道が交差する交通の要衝にあったイッタ盆地を当時の王国が開発する際に埋もれた旧時代の街が発見され、今でも発掘されては修理しながら使いまわしている。


 商家テクトゥム=ルブラム家というのは、旧王家直轄地の商家である。と言っても、王家直轄という立場を無くした街には主となる産業に乏しかったので、金山が閉山されて以降は規模的にも大きくないイッタの町は年々寂れていき、それに合わせて商家の規模も減じていった。そのため今では知る人ぞ知る落ちぶれた商家の屋号である。現在の当主は私である(あった)が、数年前までは父のアウダークスが当主であった。


 商家テクトゥム=ルブラム家が本拠地を構えるイッタの街は、約七十五年前まで王が健在であり王政が揺ぎ無かった時代には隣国を抑える最前線地の要害として王の直轄地であった。そこには周辺諸侯の別邸が立ち並び、その諸侯に金を貸す掛屋で大いに栄えた町であった。


 商家テクトゥム=ルブラムもその時代には隆盛を誇り、イッタの街への貢献から世襲ではない一代男爵の名誉を何代も続けて与えられていた。ちなみに私タカーニョも一代男爵を拝領している。父アウダークスも一代男爵を拝領したが、相続のドタバタをたいして上手くまとめられず、大金をはたいて買った一代男爵である。これはイッタの市民であれば子供でも知っている醜聞の類である。


 商家テクトゥム=ルブラムの祖は東のクースーの街の領主であるシルワ家であると言われている。当時は貴族や商家の家督を継げない三男だか四男だかは小金を持たされて放逐されることはよくあることだった。そのなかで、たまたま財を成したのが商家テクトゥム=ルブラムの祖である。


 王家の直轄地であった当時は商売をするにしても通行するにしても厳しい規制があったのだが、領主の血縁であるという出自のためか、なにごとにも融通がついたため他の商家よりも大きなアドバンテージがあったと言われている。

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