第19話 一代男爵になりたい父アウダークス④
基本的にこの国の一代男爵は市政に大きな功績や貢献のあった者に与えられていた。そしてこの国の一代男爵は世襲貴族と違い単なる名誉職である。一代男爵の子孫が継げるものはなにもないし、当然年金もない。
しかも非世襲といえども貴族扱いではあるので、真に貴族たらんと振舞おうとすれば公式儀式や会議などへ自費での出席を要請される。面倒ごとも多く毎年の寄付金も求められ、そのような多くの責務を教えられると多くは調整段階であきらめる者がほとんどであったが。
もちろん市に多くの貢献があり、市から受任されるケースでは責務の多くは免除されるのではあるのだが。
「本題から失礼。
一代男爵になりたいとか?」
代官室で代官アスカールとの面談が叶った父アウダークスに、代官アスカールは右手を差し出し握手をして父アウダークスに席をすすめ、自分も腰を下ろすとさっそく本題に入った。代官アスカールは腰を下ろして口をお茶で湿らすと「すいませんね。時間がないもので」と申し訳なさそうに目を伏せる。
「はい。ちょっと大至急で肩書が必要になったものですから」
「しかし、爵位と言うものはたとえ一代男爵といえども『くれ!』と言われたからと言って『はいどうぞ』と差し上げる訳にはいかないものです」
「それは存じあげております。しかもうちの家令ティモンが失礼をしましたので、迷惑料込みでこの金額を市に寄付する形にすれば可能なのでは?」
代官アスカールは机に載せられた革袋をチラと見るも興味なさそうに溜息をつく。代官アスカールは、すでにテクトゥム=ルブラム家の相続のどさくさにまぎれて2億アウルムという望外のあぶく銭を既に手に入れたのだから当然である。代官アスカールはもうなにもせずに大人しく任期を終えるのを待てばいいのだから。これ以上つまみ食いをして、後ろ暗いことを作る必要はなかった。
「と言われましても。
父アウダークス様はまだイッタにいらして日も浅いと聞いております。それにこのお金も貴殿のモノではなくテクトゥム=ルブラム家のものでしょう?」
代官アスカールの言葉を聞いて父アウダークスのこめかみがひきつり、目が吊り上がるのを代官アスカールと秘書は見逃さなかった。「この男は思った以上に堪え性がないな」と。
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