第17話 一代男爵になりたい父アウダークス②
そして気障な口調と仕草で市庁舎のふたりの受付嬢の手を取り、それぞれに小金貨2枚を手のひらに置くとそっと握らせる。額にして20万アウルム。市庁舎の受付嬢であれば月収は10万アウルム程度。
彼女たちもこのような役得は今までもあったけれど王国小金貨2枚と言うのは初めてだった。普段は王国銀貨2枚2万アウルムでも半年に1回あるかないかの驚くべき十分なチップだからである。
しかも父アウダークスが受付に投げ出した革袋はずしりと重そうで、アレがもしこの金貨で満たされていたらと思うと、大きな金の匂いを感じた。
受付嬢たちは取られた手に握らされた物の色と大きさでそれが小金貨だとわかってはいても、自分の手中にある滅多に触れることのできない小金貨の存在を自らの拳を開いて自分の目で確かめずにはいられなかった。
そして自分が握っている物が小金貨二枚であることを確認し「ヒッ」っと、怯えたような驚きの声を漏らしてしまった。その仕草に気を良くした父アウダークスは「これは美しい君たちに出会えた幸運のお裾分けだよ」とひとこと付け加えてウインクする。
「秘書室には今日は何人詰めているの? イッタだと5人くらいかな?」
父アウダークスは3人程度だろうと目星をつけていたが、受付嬢の返事を待たずにそう付け加えると受付嬢に懐から小袋を5つ取り出し受付嬢に渡した。1人が中を覗き、それぞれ小金貨2枚が入っているのを確認する。ふたりは頷きあうと、ひとりは父アウダークスをにこやかに待合室へ案内し、もう一人は5つの小袋をもって秘書室へと走った。
父アウダークスが案内された待合室のソファに満足そうに深く腰掛けると、案内した受付嬢がお茶を持ってくる。しかし、そのお茶に手を付ける前に、秘書室長が秘書室へ走った受付嬢と待合室に現れたのである。
「これはこれはイッタの誇る歴史ある大商家テクトゥム=ルブラム家のご当主さまではないですか。本日はどのようなご用件でしょうか?」
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