第16話 一代男爵になりたい父アウダークス①
その日の午後の父アウダークスの動きは早かった。クレクトの娘フラセとセーリクスに午前中の出来事を曲解させて伝えるとともに、まずは自分を侮辱した家令ティモンを黙らせてやろうと考えた。商売の結果はすぐに出ない。だが、立場や称号はどうだろうか。それは金で買えるものもあった。
「義母さん、セーリクスさん。金を出してください。
家令ティモンとその番頭たちは一代男爵でない俺の言うことを聞く必要はない。俺たちがテクトゥム=ルブラム家であり、テクトゥム=ルブラム家は俺たちのモノだと言っています。このままでは乗っ取られますよ!」
父アウダークスはそう言った。クレクトの娘フラセとセーリクスには、父アウダークスの言うことは到底信じられない話であった。家令ティモンは彼が十五の時よりテクトゥム=ルブラム家に誠心誠意仕えており、先代家令の下で厳しい教育を受けて、この三十年間ほど身を粉にして尽くしてくれていた。
また、後先を考えずに他人のために気前よくお金を使ってしまうクレクトを戒め、陰に日向にテクトゥム=ルブラム家を支えてくれた男である。その忠誠の対象はイッタ市に貢献するテクトゥム=ルブラム家であり、そのテクトゥム=ルブラム家を支えることに誇りを持っていたはずだった。
「だから! 俺は一代男爵にならねばならないのです!
今すぐ! そう今すぐに!
俺がテクトゥム=ルブラム家の当主でしょう!
女子供は当主の言うことを聞くものです!」
そう怒鳴るとおびえる女中の髪を掴んで私邸の金庫まで案内させ、クレクトの娘フラセとセーリクスを急かして金庫を開けさせた。そして金庫の中にあるクレクトの娘フラセとセーリクスの金をふたつの革袋いっぱいに詰めると市庁舎に向かった。
「テクトゥム=ルブラム家の当主アウダークスだ。
代官様にお会いしたい。個人的に話がある。悪い話にはしない」
そう言うと市庁舎の受付に金貨が入った革袋をドサリと無造作に置いた。その音の重厚さは、その革袋と父アウダークスに衆目を集めることになり、父アウダークスはその視線に満足するのであった。
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