第15話 父アウダークス襲来⑥

 これはテクトゥム=ルブラム家が一代男爵を続けておりイッタの市民でさえ、テクトゥム=ルブラム家は世襲の男爵であると勘違いしていた。事情を知らない父アウダークスが誤解するのはしょうがないことであった。


 しかし、これは「そんなことも知らずに貴族面するなんて、そんな人間がテクトゥム=ルブラム家の当主にふさわしいですか?」という家令ティモンの冷静な反撃であった。そして、このような振る舞いをしている貴方が『人格がすぐれていると言えないでしょう?』という家令ティモンの皮肉である。


 従業員たちはテクトゥム=ルブラム家に従順で冷静な家令ティモンの発言に驚いたが、家令ティモンがこの父アウダークスを認めていないと分かりホッとするとともに、クスクスと笑いがおこり、全員が公然と侮蔑の目を父アウダークスに向けた。


「お前誰に向かって口をきいていると思ってるんだ?」


 父アウダークスは顔を真っ赤にしたまま威圧しようと声音を落とし、杖の先で家令ティモンの顎をちょんちょんと叩く。「このまま本気で突けば、お前の喉はつぶれ最低でも重傷だぞ」という威圧であった。


 しかしこの手は上手くいかなった。冷静さを取り戻し、平然としている家令ティモンを守るように、先ほど打ち据えられた番頭たちが杖を掴んで奪ったからだ。


「父アウダークスさん。ここをどこだと思っているのですか? テクトゥム=ルブラム家の本部ですよ。我々がテクトゥム=ルブラムなんです。あなたがそれなりに人望を集めているならばここはホームかもしれません。

 しかし、今日これまでの振る舞いはクレクトの弟アパテナオスと変わりません。すこし頭を冷やしたらいかがですか?」


「だまれ。雇われ人のくせに偉そうに。お前ら全員解雇だ。解雇。

 明日からもう来なくていい」


 家令ティモンをはじめとして敵意を露にした3人の番頭や従業員たちに囲まれて、さすがに不利を察した父アウダークスは、番頭に奪われた杖を取り戻すと杖を振り回し、机の上の書類やものをなぎ払いながら捨て台詞を残してようやく事務所を出て行くのだった。

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