第14話 父アウダークス襲来⑤
これは収まりそうにもないと感じた女性たちは、足を怪我した従業員とすすり泣く書類頭のカルティの肩を抱き「やってられない」といった顔でそろそろと休憩室へと移動していく。
反感に満ちた目で自分の部下であり、身分が下(と思っている)の番頭たちが反抗したのだ。父アウダークスの機嫌を損ねるには十分だった。激怒した父アウダークスは目を吊り上げ顔を真っ赤にして、事務所の入り口に向かった。
事務所にいる全員が(これで父アウダークスは事務所から出て帰る。とりあえずこの人物相手に今後どう対応するか全員で考えられる)と目を合わせて語りあう。頷きあう従業員たちの目は安堵しており、事務所にはホッとした雰囲気が漂った。
しかし、父アウダークスは事務所の入り口にかけてあった杖を取ると反抗した番頭たちのところに戻り、激しく打ちすえたのだ。あまりの出来事に冷静な家令ティモンですら動けず、打たれた者も何が起こっているかわからなかった。
一人目が打ち据えられ、二人目が突き倒されても誰も動けず、三人目の番頭も手を上げて杖を防ごうとするが、みぞおちを突かれた上で叩き伏せられていた。
「お前と、お前とお前! お前らはいらん!
誰のおかげで仕事させてもらってるのか!
テクトゥム=ルブラム家のおかげだろうが!
その当主たるこのアウダークス男爵様に反抗する礼儀知らずはいらん!
二度と俺の前に顔を見せるな!」
冷静な家令ティモンもここまでの仕打ちに、今までの忠誠の対象であったテクトゥム=ルブラム家がその忠誠を捧げる対象でなくなったのを感じた。なにより家令ティモンは生まれて初めて心の底から頭に血が上るという体験をしていた。心臓が激しく血を送り出し、首筋、そしてこめかみに血がめぐるドクドクという音が聞こえていた。それとともに家令ティモンの視野が狭まり一気に赤く染まった。
「父アウダークスさん。お答えします。
私どもは商家テクトゥム=ルブラム家のおかげで仕事をしています。しかし商家テクトゥム=ルブラム家の奴隷ではありません。なにより父アウダークスさんのおかげではありません。我々の尊敬と忠誠の対象はテクトゥム=ルブラム家であり、個人ではありません。
そして、テクトゥム=ルブラム家は一代男爵ですので世襲ではありません。大変申し訳ございませんが、一代男爵は非世襲の名誉爵位とはいえ実績と『人格がすぐれた者』でないとなれないのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます