第13話 父アウダークス襲来④
「ご当主サマがタバコ咥えたんだからさっと火をつけんか!
この気の利かないウスノロが! これだから田舎の女は使えないな!
気も効かない。若くもない。器量もない。
お前みたいな女がなんのためにココにいるんだ?」
長年、テクトゥム=ルブラム家に仕え、家令ティモンやその下で働く番頭たちを支えていた書類整理の仕事の一切合切を取り仕切る書類頭の女性カルティを、父アウダークスが小間使いか奴隷かのように蔑むと、女性はこらえきれずにしゃがみ込み涙を流しすすり泣きを始めた。
つい昨日までクルクトとクルクトの娘婿であるピウスが戦場に行き亡くなるまでは忙しくて嵐のような日々だったけれども、それでも全員が一丸となり笑顔と活気にあふれた職場だった。それが今どうだろうか。涙と嗚咽、恐怖に満ち満ちた悪夢のような環境となっていた。
たしかにテクトゥム=ルブラム家はのんびりとしており、商家と言うにはあまりに穏やかであった。取引でも一方的な取引を持ち掛けることはせず、相手の利益まで気にする甘ちゃんではあったが、逆にそういった点で多くの商家からは信頼されていた。
たしかに他の商家にカモにされている分もあったかもしれない。それでも長年にわたり取引に関わる公平さと公正さは認められていたので、他の商家もテクトゥム=ルブラム家を相手に一方的に不公平な取引を持ち掛けることはなかったし、市民からも慕われ「どうせ同じものを同じような金額で買うならテクトゥム=ルブラム家の商店で」という市民も多かったのだ。
自分たちを支えた書類頭の女性にまで暴言を吐き泣かせたことで現場は一気にヒートアップする。ここにいるのは長年テクトゥム=ルブラム家を支えてきた者たちである。商売上、当然荒事にも巻き込まれることもあったし、暴言や暴力にさらされることもあった。ただ今までは「俺が当主だ」と言って乗り込んできた父アウダークスの振る舞いに戸惑っていただけである。そして信頼する家令ティモンに遠慮していただけなのだ。
「カルティさんは書類頭であって女中ではありません! 暴言を取り消してください!」
「代々の当主は出来た人で他人を罵倒したりしなかったぞ!」
「実績のない人間が、母トレランティア様の婿と言う立場だけで偉そうにするな!」
こうして父アウダークスは各事業を取りまとめる三人の番頭たちの反発を受けることになった。
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