第7話 テクトゥム=ルブラム家の争続②

 世襲ではないとは言え数百年にわたりイッタの市政と経済に大いに貢献し一代男爵を続けてきたテクトゥム=ルブラム家に対するクレクトの弟アパテナオスの無体はすぐに人々の口の端にのぼった。そこでクレクトの弟アパテナオスは奪った土地や宝飾類をすぐに売り払い自身の掛屋の勢力を拡大させている。


 賄賂漬けの代官アスカール。貧しい農民や商家、貴族に金を貸して返済日には本人は不在にすることで返済日に返済させず、返済が守られていないからと担保を取り上げて勢力を急拡大させた掛屋ウィリディス。加えてクレクトの弟アパテナオスはこの時代のイッタ3悪人と呼ばれることとなるが、それは別の話である。


 さて、イッタに戻った父アウダークスは家令ティモンと毎年納税のために作成されるテクトゥム=ルブラム家の資産目録と現状を突き合せることによって、奪われた権利書や家宝、宝飾品類を確定していった。


 確定の後に市の調停課に強奪被害を申し立てたもののクレクトの弟アパテナオスは各種権利書および動産類はすでに掛屋ウィリディスへ売却し換金後であったため、市の調停課がクレクトの弟アパテナオスの屋敷に踏み込んだときには権利書も勲章や家宝など高価な動産類も一切なかった。


 家令ティモンは市に換金したので物がないのだから資産台帳に記載されている価格の賠償金を支払うようにという不服申し立てをしたがこれは却下された。これはすでにクレクトの弟アパテナオスが代官アスカールに今回強奪して得た金のおよそ3分の1に値する2億アウルムを送っていたからである。


 代官の年俸が1000万アウルムであるからおよそ20年分。破格の賄賂であった。これは「表に出せない金はケチるな」という掛屋ウィリディスからのアドバイスであった。


「10万アウルム20万アウルムのような小さな案件ならば代官アスカールはなにも考えずに受け取る。しかし、今回は額も影響も大きい。100万、200万であればどちらに着くのが有利か代官アスカールは考える。しかし自分の年棒の10倍となれば、リスクがとれる。中央から罷免されても金さえ隠して『知らぬ、存ぜぬ』を貫けば丸儲けであるし、よしんば疑惑で役職を追われても代官まで務める学とコネがあれば地方領主から幾らでも声はかかる」という物であった。

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