第8話 テクトゥム=ルブラム家の争続③
代官アスカールは、クレクトの弟アパテナオスが陳情に来て差し出した菓子折に入った金を見て目を見開き生唾を飲み込んで受け取った。代官アスカールはクレクトの弟アパテナオスが見ている前で調整課に「市は本件への介入をしないこと」とする指示書を書いた。
その事へのお礼にと、クレクトの弟アパテナオスは掛屋ウィリディスへ500万アウルムの謝礼金を持って訪問したが「手前どもの利益はすでに貴殿から動産を買い取るときにいただいているから」とやんわり断っていた。
500万アウルムの出費が減ったクレクトの弟アパテナオスは掛屋ウィリディスに平身低頭してホクホク顔で帰る。見送った掛屋ウィリディスは「まだまだ甘いですね」と呟いていた。
掛屋ウィリディスはクレクトの弟アパテナオスが持ち込んだ動産を6億アウルムで買い取っていたが、その半分は10億アウルムですでに売却済みであった。ここで買収の顧問料として500万アウルム程度を受け取るのはリスクが高いのだ。クレクトの弟アパテナオスもイッタの3悪党と名を上げられてはいたが、そもそも役者が違うのだった。
今のままであれば掛屋ウィリディスは持ち込まれた動産を買い取って他所に売却しただけである。腹を探られても「買収にも相続にも関与してない」と突っぱねることが出来る。ここで500万アウルム程度の端金(転売で得た4億アウルムと比べれば)を貰うと、クレクトの弟アパテナオスがヘマをして官吏の監査が入った場合、買収教唆で手入れを受ける可能性すらあるのだ。最悪、共犯として牢獄送りである。
さらに言えば、今回の取引では掛屋ウィリディスは物の出どころは知らないフリをしているだけだが、帳簿には取引自体は正確に記帳されており何ら違法性もない。しかし、掛屋ウィリディスはクレクトの弟アパテナオスが本家を急襲し強奪しているのを知っている。
クレクトの弟アパテナオスのスネの傷を知っているのだから、クレクトの弟アパテナオスは「掛屋ウィリディスを自分の共犯者だ」と思っているのだが、事実は全くもってそうではない。
手を汚したのはクレクトの弟アパテナオス。掛屋ウィリディスはただの傍観者である。500万アウルムを受け取らないことで自分の手は汚さない。そして、その500万アウルムで、いつか使えるかもしれないクレクトの弟アパテナオスを蹴落とす情報を買ったと思えば、掛屋ウィリディスにとってとてつもなく大きな儲けの出た取引だった。
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