第11話 父アウダークス襲来②
家令ティモンは父アウダークスに「この案件は飼い犬に手を噛まれたと思って本業に注力し、テクトゥム=ルブラム家を盛り上げるべきである」と上申した。
が、それまで黙って聞いていた父アウダークスは烈火の様に怒りだし、家令ティモンは他の責任者の前で面罵されることになった。これまでテクトゥム=ルブラム家の当主は代々温厚で慈愛に満ちており、商家テクトゥム=ルブラム家も最盛期からは大きく力を失った今でもその性格から多くの市民から愛されていた。
またテクトゥム=ルブラム家の小作人は上納する農産物も少なく余裕があるので、小作人は順番にその日取れた作物をテクトゥム=ルブラム家の事務所に「今日の夕餉にでも」と持ってきてくれるのが常であった。
そこに朝の採り入れが終わり事務所に寄った小作人が運悪く居合わせた。いや、運が悪いのはテクトゥム=ルブラム家であり、父アウダークスであったのだが。
建てられてから幾星霜、忙しいながらも穏やかな時間だけが流れていた事務所にテクトゥム=ルブラム家当主の罵声が初めて響いたのである。父アウダークスが家令ティモンを面罵する大きな声に事務所にいる全員が身をすくめた。通りからも「なにごとか?」と1階の店を覗き込むやじ馬もいる。それだけの声量だった。
「バカか! 家令のお前がそんなこと言う甘ちゃんだから舐められてるんだよ!
盗っ人に1銭でもやってみろ!
こいつらまで調子に乗ってテクトゥム=ルブラム家は傾くぞ!」
父アウダークスは額と額を付け合わせんばかりに家令ティモンに詰め寄り、胸をつきながら怒鳴り散らす。家令ティモンは顔色を変えずに眉をひそめていた。父アウダークスはそこまで言うと、採れたての作物を持ってきて居合わせた小作農に咥えていた煙草を投げつけたのだった。
小作農は「ヒッ!」と小さく声を上げて土下座して顔を伏せ「申し訳ありません、旦那様。お慈悲を」と繰り返した。テクトゥム=ルブラム家が壊れた瞬間だった。
土下座してぶるぶる震える小作人を見て、父アウダークスが椅子を小作人の方に蹴飛ばすと椅子が小作人に当たる。小作人は再び「ヒッ!」という小さな悲鳴を上げて額を床にこすりつけて「申し訳ありません。申し訳ありません」と震えるばかりだった。
あまりの無体に家令ティモンが事務員に目配せすると隙を見て事務員は小作人の肩を抱き事務室から連れ出した。父アウダークスのそれ以上の言動を止めようと口を開こうとするが、父アウダークスは舌打ちして脇の机を蹴り飛ばして機先を制す。
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