第10話 父アウダークス襲来①

 この時、テクトゥム=ルブラム家の資産は奪われた六億ラウルムを差し引いてもおよそ40億ラウルムあったという。土地建物が27億ラウルム、商品在庫が3億ラウルム、売掛金が3億ラウルム、現金が7億ラウルム。


 また、これとは別にクレクトの娘フラセとセーリクスはクレクトの生前から所領を預けられており、それぞれ10億アウルムほどの土地と、そこからの収益による蓄財が4億アウルムほどあったという。


 田舎の小貴族に匹敵する資力であった。家令ティモンとテクトゥム=ルブラム家に仕える面々は、奪われた6億アウルムに拘泥するよりも商売という本業に邁進するはずであった。


 しかし、父アウダークスはそうではなかった。テクトゥム=ルブラム家の当主は自分であると、クレクトの娘フラセとセーリクスに「フラセの長女トレランティアの夫である自分がテクトゥム=ルブラム家に相応しい」と言い、「認めないのであれば、フラセの長女トレランティアもその子タカーニョも王都へと帰り、金輪際イッタに戻って来ないし会わせない」と恫喝した。


 そして自らをテクトゥム=ルブラム家の当主として認めさせた。この時、テクトゥム=ルブラム家には他に信頼できる男子がいなかったので、クースー領主であるシルワ家もしぶしぶ承認した。


 そこで、先ほどの「盗っ人に1アウルムたりともやるわけにはいかない。争って全部取り戻すべきだ」という発言である。父アウダークスは、この強奪を解決して自分の力を誇示し、テクトゥム=ルブラム家を掌握しようとしたのである。


 自分の知らない土地で、知らない人間関係、政治力学の中で、何枚も上手の悪党とやり合おうとしたのだ。


「俺が新しい当主だ。せいぜい俺のために働けよ」


 次の日の朝早く、母トレランティアがクースー・シルワ家に帰参の報告とシルワ家ゆかりの寺院であるケルサ=トゥムロスに向かったのを確認した父アウダークスは、テクトゥム=ルブラム家の事務所に足を運んで言った。


 そこで家令ティモンは、クルクトの弟アパテナオスが略奪をはたらいて強奪していった資産の回収を諦めたクレクトの娘フラセとセーリクスが事業の再開を決定した後に、古参の三人の番頭と決定した今後の方針を父アウダークスに伝えた。


 家令ティモンとテクトゥム=ルブラム家の三番頭は、父アウダークスに「先の略奪については留保し、まずは事業の再開に集中すべき」旨を上申した。

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