第11話 錬金術師と愛力の果実 その4
「はい!どうぞ!」
けーくんにとっては不意打ちであるノックに反射的に返事をするけーくん。慌ててしまって上ずった声が出て、そのことに羞恥を感じて顔が真っ赤になっているけーくんらぶりー。
「失礼します」
一人の中年男性が一礼して入室する。
白髪交じりだが綺麗に整えられた髪と髭。落ち着いた黒のスーツ姿には長年着てきた者だけがまとえる自然な雰囲気がある。そして、顔に浮かぶ表情は媚びた笑顔や引きつった笑顔ではなく引き締めた鋼の無表情。
『出来る男』が形を成したような人物である。
「メノウ様。当ギルドにお越しくださいありがとうございます。お連れの方は初めまして。当ギルドの総責任者をしているギア・ローレンスとお申します」
先ほどよりも深く、腰を曲げた礼をけーくんに対して行う。2,3回ほど会ったことがあるが相変わらず礼儀作法が徹底している。無表情と合わせて隙の無い有能っぽさを感じる。
「メノウさんの所で師事させて貰っているケイトと言います!よろしくお願いします!」
年上の出来るオーラを纏ったギルド支部長の丁寧な自己紹介に驚きながらもソファーから飛び上がり自己紹介返すけーくん。ぺこぺこと擬音が聞こえそうなほど何度も頭を下げるけーくんの真面目な所と世慣れていない感が出ていてらぶりー。
「ケイト様ですね。こちらこそよろしくお願い致します。……メノウ様がお越し下さった理由をお聞きする前に、先ほどはギルド所属の冒険者がケイト様に狼藉を働こうとした件。誠に申し訳ございませんでした」
自己紹介の時より更に深々とした謝罪の礼をけーくんに行うギルド支部長。私ではなくけーくんに謝罪をしたのは私的にポイントが高い。ただ、けーくんはギルド支部長の謝罪にあわあわしながらこちらに救助の視線を向けてくる。
事前にトラブルが起こった場合の対応は全て私が行い、けーくんには返答はもちろん相槌すらも打たないように言い含めている。慌てながらも私の指示を一生懸命守ろうとするけーくんらぶりー。
「支部長。まずは座り給え」
ギルド支部長には言葉で指示し、けーくんには視線で座るように促す。二人がソファーに座ったのを確認して、五秒を数える。そして、口を開く。
「冒険者に絡まれたのはギルドに非があったと認めると言うことかい?」
「ギルドの建物内で生じたトラブルです。ギルドに非があるのは当然です」
「……そこは確かに当然だね。こちらとしてはギルド所属の冒険者がトラブルを起こしたことについても詫びてくれるか聞きたいんだけど?」
「冒険者ギルドと冒険者はあくまでも互助関係であり、対等な関係です。ギルドの依頼中にトラブルがあれば私達が矢面に立つこともありますが依頼を受けている訳でもなく、冒険者の方に非があるのなら私達は関知いたしません」
こちらの視線を受け止め、逸らさずに返答するギルド支部長。言わんとすることはこっちもちょっと不味ったけど一番悪いのは冒険者だよ。ギルド側は責任を持たないし、冒険者をどう扱っても抗議しないよ。ってところだろうか?
責任のある地位にいる者によくある保身の発言だ。保身に走るのは問題ない。全体を守るために個人を切ることも仕事の内だろう。今回は冒険者が悪いのだから猶更である。
ただ、こっちとしては冒険者個人がけーくんに手を出さないようにするのが狙いではなく、冒険者ギルド全体でけーくんの身の安全を保障するように働きかけて欲しいのだが……。
面倒くさくなってファーランに全部投げる選択肢が頭を過る。が、けーくんの安全安心生活は私が提供したい。ちょっとプレッシャーをかけたら支部長殿は組織を守るために組織として頑張ってくれないだろうか?
「なるほど。なるほど。支部長殿は冒険者のせいで私の身内に累が及んでもどうでもいいって言ってるのかい?」
普段は抑えている魔力やら感情やらを表に出す。その結果としてギルド支部長に怖がられ、警戒され、悪評がさらに増えるだろうが気にはしない。今後、けーくんが一人で冒険者ギルドに来ても気分を害することなく用事を済ませ、何の問題も無く帰ってきてくれることが私の目標だ。
そのためなら冒険者が不自由になろうが、冒険者ギルドが不利益を被ろうが知ったことではない。
だから、更に言葉を重ねて、宣言する。
「あんたらが過剰だと思っても、私の身内に何か私は行動する。ポーションとかの取引を打ち切るなんて行儀の良くするつもりはない。私の持ってるもの全て使って潰すよ」
支部長の顔色が悪くなり、呼吸が乱れる。それでも、表情自体は変わらないことに内心、感心する。
そういえば、ファーランが彼を高く評価していたことを思い出す。聞かされた当時はナイスミドルにやられたのかと聞き流していたが私の威圧で表情を変えなかった者はほとんどいない。今ならファーランの高評価も頷ける。
「メノウ様の仰りたいことは分かりました。……そこで、メノウ様にお願いがあるのですが」
「お願い?」
表情を変えないことに感心していたらまさかのお願いをされてしまう。
「今回の件は酒に酔った冒険者がケイト様に絡んだことが発端だと聞いています。今回の件以前にも酒に酔った冒険者によって依頼に来た一般の方に迷惑をかけたケースが何件も報告されています。私はこの問題の対策としてギルド内に設置されている酒場を外部へと移転することを提案しています。しかし、現状では冒険者からは不満が続出し、ギルド上層部からは慣例だからと無視されている状況です。そこで今回の件でメノウ様の意向を冒険者、ギルド上層部に伝えさせて頂きたいのです」
驚いた。言い終わり、息が荒くなっている支部長を見ながら思う。今さっき威圧してきた人物に対して、私も現状を変えたいので変えるために後ろ盾、もしくは矢面に立てと言い放ったのだ。
対策としてギルド内から酒場を撤去という点もいい。普段なら考えられないやらかしも酒に酔ってるとやらかしかねない。酒そのものがなければけーくんの安全率は更に上がるだろう。
「もちろん許可するよ!話を盛ってもいいし、支部長殿の好きなようにやっちゃっていいよ!」
今更、私を憎々しく思う者が増えようが誤差の範囲だ。元々、嫌われても関係無いと思って挑んだ案件だ。私は支部長のお願いを快諾する。
あと、息切れする支部長に水を手渡したり、背中を撫でて介抱しているけーくんらぶりー。
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